【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

「えーっと、まずは最初の対戦カードはっと……なんで俺がこんなことしなきゃいけないんだよ」
　宇佐見望月は、ぶつくさ愚痴をこぼしながらマイクを持って走り回っている。今日は実況係として、対戦前の選手たちに意気込みを聞いて回るのが仕事だ。
　なんとか適当にサボれないか、と考えていた矢先にポケットの携帯電話が鳴った。
「うわ、なんだよこんな時に……もしもし？」
「馬鹿叔父貴ッ！何が不満なんじゃ！」
　いきなり耳に入った大田原いいなの怒声に、望月は縮み上がった。
「いや、何も不満持ってません愚痴もこぼしてません！」
　電話は、ぶちっと音を立てて切れた。彼は焦って辺りを見渡す。
「……どこから見てるんだ、いーなは？ま、いいや。とにかく持ち場に急がなきゃ」

　望月は、最初に試合に出る2年10組チームにマイクを向ける。
「試合への意気込みは？」
「勝負なら負けたくなぁい！でも、まずは思い切り楽しむこと、かな？」
　志波武道が明るくコメントを残した。
「勝利に向けての自信のほどは？」
「楽しみつつ、もちろん勝ちは狙う。作戦もちゃんとある」
　冷静に答えたのは、楪櫻だ。
　ここで、望月はいたずら心を起こした。桐野正也にマイクを向けて―――
「らびゅらびゅな二人に挟まれてどーですかっ？」
　告白に失敗した男のひがみも、多分に入っている。
「いやー、なんのことかなぁー？」
　白々しい正也のコメントと同時に、クリスマスに成立したばかりの傍らのカップルは、顔を赤くして視線を逸らした。

　青山絢は、試合が始まる前の会場の様子を、持参したデジカメに収めた。適当に2，3枚撮ったあと、辺りを見回す。今日の目的は、クラスメイトの女子3人組の応援だ。
「―――雨寺さん、結衣月さん、黒依さん」
　絢と同時に、１年６組女子チームも相手に気がついたようだ。
「あれ、絢ちゃん！」
　雨寺凛が人懐こく手を振ると、絢もはにかんだ感じで微笑み返した。
「早速第１試合に出るのよね。応援してるわ」
「うん、ありがとう。頑張って優勝目指すよ！」
　黒依アリーセも微笑を浮かべた。
「作戦も少し考えてきたの。３人で楽しく頑張りましょう」
　ところが、その横でどんよりしたテンションでいるのが、結衣月由癒だ。
「赤点免除って聞いたのに……ただの噂？うう……」
　授業の大半を寝て過ごす由癒がかるた大会に出た目的は、赤点を免除してもらって授業中思いっきり寝ること。しかし、「赤点免除」というのが真偽不明の噂だと聞いて、こんな状況になってしまった。
「でも、みんなで勝ちたい……寝たいけど、頑張る……」

「おっ、君たちが相手か！クラスで組んだとこも同じだなー、まっけないぞ！」
　志波武道は相手に向かって軽口を叩いた。口調は軽いが根は真剣だ。
「遠慮なくかかってくるがいい一年生たちよッ！」
「ふふん、雨寺ちゃんのチームと対戦か。後輩だからって手加減はしないぜ？」
　不敵に笑うのは、桐野正也だ。一方、その横で楪櫻はクールに構えている。
「スピードと体力なら負ける気はしない。体育科の、そして2年10組の本気を見せてもらおうじゃないか」
　櫻の気迫にも、１年６組女子チームはひるまない。
「相手はセンパイたちだけど、本気で行かせてもらいますよ！勝っても負けても恨みっこなし！よろしくお願いします！」
　試合前の凛の礼は、誰よりも明るく元気が良かった。

　いよいよ、第１試合が始まる。

　難波津に　咲くやこの花　冬ごもり　今を春べと　咲くやこの花

　導入の歌が朗々と読み上げられ、会場の緊張が一気に高まった。

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