【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　桐野正也は、恋心や失恋の歌、季節ごと自然の歌とイメージでまとめて自陣を並べてある。瞬発力には自信があるから、多少自信がなくても相手の動きを見極めて先に取ってやればいい。ただ、お手つきはしたくないから、もう少し札の枚数が減って絞り込めてからの戦術だ。
　楪櫻も、札の並べ方を考えてきた。特に取りたい札は目の前の中央に。あとは、「上の句の2文字目」をアイウエオ順に並べる。お手つきが怖いので、並べ方はわかりやすい位のほうがいい。場所さえ把握しておけば、自分の反射神経でカバーできるはずだ。

　忍ぶれど　色にいでにけり　わが恋は　物や思ふと　人の問ふまで

「来た！」
　早速出たのは、正也のとっておきの歌だった。手の近くに置いてあった札を、がっちり押さえる。
「お、きりのんのオキニ札か。やったネ！ところで、なんでそれが好きなの？」
「理由は……まぁ、俺のろっこん見てれば分かるだろ？恋する人の気持ちがよく現れててさ……いや、別に今の俺がそうとかじゃなくて……」
　武道の問いかけに、正也は実にわかりやすい反応をした。

　一方の１年６組女子チーム。真ん中に陣取るのは雨寺凛だ。札を探すエリアは、右側・中央・左側と３人で分担して効率よく取る作戦だ。

　瀬をはやみ　岩にせかるる　滝川の　われても末に　あはむとぞ思ふ

「はい！」
　一字決まりの歌が読まれた。凛の試合運びは、思い切ったスピード勝負。相手が手を出すよりも早く取る攻めの姿勢。2年10組チームの陣の札が、綺麗に払われた。
「すげえ勢いだな……」
　正也たち相手チームも、凛の大きな声に驚いている。
「離れてもいつかまた会える―――未来に希望を持った素敵な歌だよね！絶対に取りたかったんだ！」
　彼女なりに頑張って歌を覚えてきた成果だった。
「これで同点ね！この勢いよ」
　黒依アリーセにとって、歌には思い入れがある。音の感じと歌の意味を大切にしながら、百人一首をしっかり予習してきた。
「どれも語感が綺麗で味わい深い歌ばかり……だけれど、そのままじゃ勝負にならないわよね。頭の中で倍速、いいえ、4倍速くらいで再生できるつもりで……」
　アリーセは、百人一首には「あ」で始まる歌が一番多いことに気づいていた。つまり、「あ」で始まる歌を素早く取れれば有利になる。ちょっと機械的だが、自陣の「あ」で始まる歌はさりげなく自分の前に配置した。

　秋の田の　かりほの庵の　苫をあらみ　我が衣手は　つゆに濡れつつ

　この歌は、最初の「あきの」まで読まれれば確定となるので、すかさず手を伸ばし、無駄のない動きで奪取。うまくいきそう―――と思った矢先だった。