【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　みかき守　衛士のたく火の　夜は燃え　昼は消えつつ　ものをこそ思へ

『身か肝、昼（メシ）』の語呂合わせで覚えた札だ。春彦は迷うことなく、自陣の札を押さえた。
「食い放題もスイーツも、ついでに国語の赤点免除も手に入れてやるぜっ！」

　風そよぐ　ならの小川の　夕暮れは　みそぎぞ夏の　しるしなりける

「風そよぐ味噌……！」
　蒼志の払い手にも、力強さが増してきている。後輩二人の士気が目に見えて上がったことで、陽太もテンションが上がってきた。
「オレを本気にさせたようだね……」
　意味深に呟き、陽太は眼鏡に手を伸ばす―――
「せ、先輩が眼鏡を……」
「でも、外したらよく見えなくなる……！」
　陽太は冷静に、眼鏡をかけ直した。

　椿美咲紀は、息を飲んで試合を見つめている。心の中で選手たちに熱い声援を贈る一方で、試合ごとに冷静な分析を加えることも忘れない。後でいい記事を作るためだ。
「男子チームの対戦らしい、パワフルな試合です！実力はほぼ互角で、お互いに譲らない展開だったけど……」
　美咲紀は、「先輩におごられ隊」チームの本気に驚嘆していた。
「ここに来て二一二チームが突き放されかかっています！一体、このチームは何がきっかけで目覚めたんでしょう？」
　新聞部号外の記事を充実させるため、美咲紀は詳細なメモを取り続けた。

　後半戦から別人のような集中力を発揮し始めた「先輩におごられ隊」チームが、一気にラストスパートをかける。

　おほけなく　うき世の民に　覆ふかな　わがたつ杣に　墨染の袖

　陽太がスピードを生かした払い手で、自陣に残った最後の一枚を取る。第８試合は、「先輩におごられ隊」チームが、５枚差で二一二チームの追撃を振り切った。

「飯だーっ！」
　優勝同然の歓喜を背に、拓郎は肩を落としている。
「先輩との約束……果たせなかったっす……」
「何だあのことか？冗談だよ、安心しろ」
　煉が拓郎の肩に手を置いて慰める。その様子を、朧はニヤニヤ笑いながらもそっと見守っていた。

「―――負けちゃったぁ……」
　ののこが肩を落とす。景気のいい意気込みは何処へやら、「ザ・優勝候補」チームは完敗してしまったようだ。
「相手は強かったけど、悔しいな……」
　悔しがる美弥子を、あおいが慰めた。
「私たちはまた来年、出場できるから……次からの試合、応援しよっ！」

　水上桜は、ふと我に帰った。かるた大会の観戦に訪れて、いつの間にか白熱した試合展開に引き込まれていたのだ。
　歌が読み上げられる直前の一瞬の静寂に固唾を呑んだり、鮮やかで力強い払い手に思わず声を上げそうになったり―――普段は控えめで大人しく見える桜には珍しく、目に見えて熱くなっていた。
　最近は受験のプレッシャーを感じてばかりで、こんな楽しいことはなかった。寝子高の先輩たちは、皆楽しそうに、そして一生懸命に試合に取り組んでいる。スタッフの先輩も優しい人ばかりだった。
　桜は、胸に新たな決意を抱き、ぽつりと呟いた。
「やっぱり私、寝子高に行きたいな。入試、頑張らなきゃ！」