【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　桃川圭花は、一週間前に永田先生と交わした会話を思い出していた。古典の授業中に居眠りをして、職員室に呼び出されたのだ。
「桃川。古典の授業は退屈か？」
「うーん、退屈というか、地道な暗記は苦手で……」
「なら、楽しみながら勉強できたら得意になるかい？」
「……？それなら、多分」
　謎めいた言葉に首を傾げる圭花に、永田先生は微笑んで言った。
「それじゃ、決まりだ。今度のかるた大会で、一人足りてないチームがあるんだ」
　こうして、圭花の出場は一方的に決められたのだった。

「……この際、経緯はどうでもいいわ。せっかくだし赤点免除、してもらおうじゃない」
　圭花は今回、先輩2人と組むことになる。
「一期一会、縁は異なもの味なもの、なんて昔の人もそう詠んだそうだし……」
「圭花ちゃん、それは歌じゃないわよ」
　チームメイトの早坂恩が笑って訂正した。
「そうだっけ？まー細かいことはいいわよね。早坂先輩に仙藤先輩、よろしく！」
「よろしくね、桃川さん、早坂君」
　即席チームのもうひとりのメンバーは、仙藤紫だ。3年生だが、すでにAO入試で木天蓼大学文学部の合格をもらっており、受験勉強からは解放されている。だからこそ、かるた大会に出場できたのだ。寝子島高校での生活も、残りわずかだ。
「古文は苦手なのよ。だから、今までかるた大会は敬遠してた。去年は大会のスタッフとして携わったけど……。でも、今年で最後だと思うと、一度くらいは出場したほうがいいかなって思ったわけ」
「学校行事は参加する側の方が面白いものねぇ」
　恩が、紫の言葉を肯定する。いろいろあって結成された“えんじょい”チームが、これから試合に臨む。

　８試合を終えて、源氏組と平氏組の対戦成績は再び４勝４敗と並んだ。源平のどちらが勝つのか注目が集まる中、第９試合の時刻となった。
　中央の札をはさんで、両チームが一礼する。えんじょいチームが対戦するのは、1年生の幼馴染同士によるチームだ。
「期末テストで大量の赤点を取った楓子だが、国語だけはずば抜けて得意だ。任せてくれ。古文は好きだから、百人一首はだいたい覚えている」
　千歳飴楓子は自信ありげに言った。目は普段のように眠そうではなく、真剣な眼差しをしている。
「絶対勝つぞ！理系だしめちゃくちゃ得意ってわけじゃないけど、勝負事だからな！」
　負けず嫌いな性格の卯木衛も、全力で向かっていく姿勢だ。
「なつくんと楓くんは文系だからいけんじゃねーか？」
　水を向けられた立花なつが答える。
「かーちゃんほど得意じゃないけど……。百人一首なら少し自信あるよ。小さい頃も姉さんたちと勉強したし」
　そんな幼馴染チームの戦略は、それぞれの得意分野に合わせた札の分担だ。
「一字決まりとか二字決まりの、相手も割と覚えてきてるような札は全力で俺が取る。ほかの札は二人に任せるな」
　中央には、スピードに自信のある衛が座る。自陣の一字、二字決まりは衛の近くに配置する段取りだ。