【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　両チームの選手が一例するとともに、第８試合が開始された。
　先ほどの先輩の一言で奮起している志波拓郎だったが―――
「札は、15枚くらいを覚えて……はい、全部は覚えられませんでした……」
「……って、百枚中の15枚か……。俺は大会前から、百人一首の歌はあらかた覚えてきたぜ」
「暗記苦手だから、これでも頑張った方、です……」
　高梨煉に呆れられたが、苦手なものは仕方ない。
「85枚に関しては諦めます……自分は、15枚狙いの超特化型で、いきます……！」
　端に座る霧谷朧の方は、肩の力を抜いて構えている。
「百人一首はだいたいなんとなく覚えてるんよ。小さい頃学校でやったし。まぁ、ちょっとあやふやな部分もあるけどな」
　朧はそう言いつつ、自信のある札は手前の方に並べる。相手の陣の札も手前の方をよく見ておいた。
「意外と取りにくいんだよな、手前の札って」
　その上に目論んでいるのは、相手の動きを察して、狙っている札を横取りすることだ。そう思って相手の視線を観察するが……
「……わからん」
　呉井陽太の糸目は、一見してどこを見ているのかわからない。陽太に関しては、この作戦は当てが外れたようだ。
　陽太は、ニコニコしながらも、自陣と敵陣両方を把握し、素早く札を取れる態勢を取っている。

　人も惜し　人も恨めし　味気なく　世を思ふ故に　もの思ふ身は

　決まり字の三文字目を聞いた瞬間、陽太は敵陣に真っ直ぐ手を伸ばして払い取った。
「この札、下の句の『よをお～！』って感じが気合い入るよねぃ」

　二一二チームも負けてはいられない。煉の戦法では、まず自分の周りにどの札が置いてあるかを覚える。いちいち全部の配置を覚えるのは大変だからだ。

　あらざらむ　この世のほかの　思ひ出に　今ひとたびの　逢ふこともがな

　覚えている歌が読まれるのと同時に、煉は手を低くして、畳の上を這うように手を伸ばした。横取りされないように、しっかりと自分の前の札を抑える。
「この歌は、死ぬ間際に『初恋の人にもう一度会いたい』と思って読まれたそうだ。俺もそんな風に誰かに会いたいって思えるような人間になりたいって思ってさ、この札にこだわってみた」
　やるからには優勝を目指して頑張りたい。煉はお手つきをしないよう気をつけながら、堅実な戦術を取る。

　楢木春彦は、相手の陣を目で追って知っている札を探している。と、下の句の「身のいたづらに　なりぬべきかな」の札を見つけた。
「あれは『憐れミノ』の札……」
　春彦が確認した次の読み上げである。

　あはれとも　言ふべき人は　思ほえで　身のいたづらに　なりぬべきかな

「それだっ」
　春彦はついていた。誰よりも早く、目的の札を払う。
「『身か肝、昼メシ』の歌もそろそろだって俺の勘が言ってるし、コイツも貰うぜ……焼肉は身も肝も美味えよなー……」
　ぐー、と春彦の腹が鳴った。
「くそー、マジで腹減ってきた」