【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　武道場では、第8試合の準備が進められている。次の試合に出場する選手も、スタンバイを始めていた。
「みやこちゃん、あおいちゃん！頑張ろうね！」
　明るい声とともに登場したのは、野々ののこだ。
「緊張するけど、勝ちたいな……」
　言葉とは裏腹に、七夜あおいの表情はわくわくする気持ちを隠しきれていない。
「絶対勝つよ！そして優勝するよ！」
　串田美弥子の号令のもと、仲良し女子3人による「ザ・優勝候補」チームは試合場所に駆けていった。

　高校2年生が2人と高校1年生が1人の二一二チームも、同じ第８試合のタイミングで、別試合に出場する。志波拓郎は先輩に囲まれる形になり、ちょっと緊張している。
「高梨先輩も、霧谷先輩も……今回はよろしくお願いします」
「ま、こちらこそよろしく」
　霧谷朧は、そんな後輩にいたって気さくに答えた。高梨煉の方は、試合前に少々いたずら心を起こした。
「拓郎、この試合で相手より先に5枚くらい取れたら……妹の恋人として認めてやろうか？」
「―――！ ……本当ですか？」
　拓郎は、あっさり煉の言葉を間に受けた。
「……その言葉、覚えていてください……」
　相変わらず物静かだが、内面はめらめらと燃え上がっているのが分かる。
「終盤までに燃え尽きないように頼むぜ？」
　煉はもちろん本気ではなかったが、見事に火をつけてしまい苦笑いしている。
「へー、お二人ってそういう関係なん？それは面白いさね……」
　両者の会話を聞いて、朧が興味深げに首を突っ込んだ。
「まぁ、将来の義理の兄と弟って感じかな？今回の一件でどうなるか分かんねぇけど……」
　煉が悪乗り気味に言葉を返す。
「妹ってもしかして、髪の長い子かね？そういえば会ったことあるんよ」
「妹に？霧谷も意外と顔広いんだな」
　世間の狭さに、煉は驚いた顔をした。

　二一二チームの対戦相手も、男子3人チームだ。
「二人ともー、勝ったら食べ放題のお店でご飯を奢るよぅ」
　呉井陽太の一声で、後輩二人のやる気に火が付いた。
「奢りっすか……しかも食べ放題……」
　普段はのんびりしている須崎蒼志が本気モードになる。
「俄然やる気が出てきたぜ！」
　食べ物に釣られて、楢木春彦にもスイッチが入った。
「二人とも札は覚えてきたのかい？オレは語呂合わせでいくつか覚えたよぅ。『おほけなく　うき世の民に　おおふかな　わがたつ杣に　墨染の袖』の決まり字と下の句は『OKわかった』っていうのが妙にツボったねぃ」
　やる気になっても、肝心の歌を知らなければかるたは取れない。陽太は二人に水を向けた。
「事前に勉強はしてきたっす。俺も、とにかく語呂合わせを頭に叩き込んであります」
　蒼志は、基本的に真面目なタイプなのだ。
「『風そよぐ　ならの小川の　夕暮れは　みそぎぞ夏の　しるしなりける』なら、『風そよぐ味噌』……。風に乗ってくる味噌の香り……食欲をそそるっすよね……」
「勉強はさっぱりですけど、運と勘にはちょっと自信があるんすよ。テストもこれで乗り切ってるし。『ながらへば　またこの頃や　しのばれむ　憂しとみし世ぞ　今は恋しき』は『ながら牛』！他も『憐れミノ』と『身か肝、昼メシ』の焼肉セット、この三つは上の句三文字で取りに行けるぜ！」
　春彦も自信満々だったが、陽太は後輩たちの覚え方に呆れている。
「二人とも食べ物に関連付けて……怖いわー、食べ盛りの男子の食い気、怖いわー……」
　ともあれ、陽太にがっちりとハート、もとい胃袋を掴まれた男子二人は、気合十分で試合に臨むのだった。チーム名はずばり「先輩におごられ隊」だ。