【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

　難波津に　咲くやこの花　冬ごもり……

　第６試合の開始とともに、雅な声が会場に響いた。ここで読み上げを担当するのは、事前に読み手として参加を申し出ていた深縹露草である。
「あの人誰だろう……？」
　選手や見学の生徒たちがなんとなく抱いている心の声を、彼も察している。
（怪しい？ふふ……学校行事において企むことなど、何もありませんよ）
　参加の許可をもらってから、空き時間や移動時間を使って練習を重ねてきた。読み上げの手順や競技かるたのルールも念入りに確認してある。
（どの組にも、どの人物にも―――平等に、公平に。有利も不利もなきよう、心を込めて。真剣に、丁寧に―――）

　露草の日本文化への情熱は確かなものだった。朗々と読み上げられた和歌が、会場の緊張感を演出した。
（実は内心、両方の組を応援しているのですが……それは内緒デース！）
　露草は今、純粋に大会そのものを楽しんでいる。

「札が偏りすぎて相手に配置がバレるのも癪だ。適度にシャッフルするから覚えておいてね」
　真ん中に座る新井すばるが、傍らの２人にそっと耳打ちした。
「そうね、偏りが心配だったから。もちろん、取れる札は狙っていくけど」
美野梨が答える。ミステリ研究会チームは、それぞれ担当する札を決めている。

　逢ひみての　のちの心に　くらぶれば　昔はものを思はざりけり

　決まり字に反応して、神野美野梨が真っ直ぐに手を伸ばした。
「一字や二字決まりは押さえたいわね」
　この歌は二字決まり。一字・二字決まりは確実に取りたいため、美野梨の前に集中させてある。三字～五字決まりはすばるの守備範囲、中央の三分の一より少し広めの場所に配置されている。
「既に出た札を覚えていれば、決まり字の文字数が減って予測が付けやすくなるわ。お手つきは恐れず、攻めていきましょう」
　美野梨は、既に出た歌と読まれていない歌を確認し、決まり字を数える。このチームの武器は、やはり記憶力だ。
「体のスピードより頭の回転で勝負！集中するわ」
「あとは、相手の配置にも法則があるか観察しとこうか。あればしめたもの、こちらの武器になる―――」
　すばるはそう言って、相手陣の札を見据え、敵の作戦を読み取ろうとする。