【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会｜リアクション

【かるた】わんだふる・ゑきさいてぃんぐ・かるた大会

「ミステリ好きはかるたが強いんだよ。記憶力はもちろん、あの本を読んでるからね」
　試合前の新井すばるの言葉は、自信に満ちていた。
「百人一首を扱ったあのミステリで興味を持って、暗記したのが役立つ日が来ようとはね……」
　第６試合に臨む、寝子島高校ミステリ研究会チームの面々である。もっとも、結成された当初のブリジット・アーチャーの台詞は、
「ん？かるた？やったことはないわ。ほら、うちは両親ともアメリカ人だしね？」
　だったが。その後、彼女は急いで付け加えた。
「でも大丈夫！春はあけぼの……とかいうやつでしょ？」
「それは別の作品よ、ブリジットさん」
　神野美野梨が勘違いを正す。
「そうなの？古典とかあまり興味ないから……。知人がやってるのを見たことはあるし、ルールくらいはわかるから」
「私もあまり経験はないけれど、詳しいルールは教えるわ。普通の試合と違って百枚全部使うそうよ」
　超初心者状態のブリジットには、美野梨が一からレクチャーすることになった。

「かのミステリでは、百人一首に面白い解釈を加えていた……それが面白くて、ボクは部室中に札を並べてた。床も机の上も、ティーカップの上にもね」
　話は試合開始前に戻る。すばるの方は、以前はまったミステリ作品のことを思い返している。美野梨もその時のことを思い出して言った。
「私も興味を持って、本とは違う解釈を手伝ったっけ」
「そしてブリジットさんに『邪魔よ、すばる』と言われて全部崩されるまでが日課みたいになってたっけ」
　すばるは愉快そうにくすくすと笑った。
「おかげでボクは、今でも百人一首は大体諳んじてるよ。神野さんもそうでしょ？」
「ええ、決まり字もしっかりと覚えたし、あのミステリも読み返しておいたわ。札の担当も決めたし―――」
「あとはお互いを信じよう。じゃ、いくよ」
　ミステリ研究会の3人は、お互いハイタッチして試合に向かう。

「おぉー、なかなか人が多いですね～」
　かるた大会の観客席を見て、音無文が感心したように言った。
「本格的なかるたってマイナー競技のイメージがありましたが……これは取材も、思った以上に気合を入れないとダメそうです」
「ふっふふー、やっぱり大イベントはすごいねー！はてさて、面白いことはあるのかなー？」
“非公式新聞部”仲間の三ヶ島葵も、その横でデジカメを構えている。イベントにはこちらの新聞部も首を突っ込んで、取材しているのだ。
「よし、次も選手の皆さんに意気込みを聞いて回りましょう！」
　そんな葵と文を、結梨亜・カールシュテインが呼び止めた。
「まってください、私たちも選手にエントリーしてますヨ！出番は次です！」
「あ、そうでした！」
　3人は慌てて選手の集合場所に向かう。
「取材だけじゃなく、試合も手を抜きませんよ。私たちの優勝を記事にするつもりでいますからね！」
　文は気合たっぷりに言って、制服の袖をまくった。