- 0
- 0
- 種族
-
- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
秘密にまつわるエトセトラ
秘密工房
日曜日の朝。佐藤 瀬莉は豪奢な扉を元気よく開けて家を飛び出した。
平日よりもちょっと早い外出。休みの市街地はまだ眠ったような静けさを横たえている。
瀬莉が地面を蹴るたび、背中のリュックがカシャカシャと、静寂を正すように音を立てた。
朝一番の寝子電に飛び乗り、星ヶ丘の一等地を後にする。
窓の外を行く人たちを見ながら、瀬莉はふと思った。
（あたしみたいな秘密を持った人、あの中にどのくらいいるんだろう？）
寝子島駅に着くと、またカシャカシャが勢いよく町を駆け抜けた。
参道商店街入り口で一息つく。ここからはゆっくり、気持ちを整えて進もう。
「最近瀬莉ちゃん、大人びてきたんじゃない？」
同級生から言われたのは金曜日の放課後だ。
「えー、そんなことないよ」
とっさにそんな言葉が出て笑ってみせたが、瀬莉はすぐに理由が分かった。
（秘密を持っているのが、大人なんだ）
商店街を少し進んだところで路地を一本折れる。昔ながらの商店街は、路地へと逸れれば逸れるほど、懐かしいにおいのする景色が増した。子どもの瀬莉にとっては誰かの受け売り。でも、そう感じる瞬間を持てることが、大人への近道なんだと、なんとなく思っていたりもする。
看板も何もかかっていない、一見するとだいぶ前に閉じたであろう、古いお店。入り口のガラス木戸には日焼けしたカーテンがかかっていて中はうかがえない。前を通る誰もが、その存在にすら気づかないような、こじんまりとした外観だ。
ここが瀬莉にとっての秘密の場所。
呼び鈴を鳴らしてしばらくすると、お店と隣家の間に立つ細長いレトロな戸が開いた。
顔を出したのは、瀬莉よりも少し年上、といっても、大学生くらいのお姉さん。しかし瀬莉にはかなり大人びて見える。
「今日も来たのね、いらっしゃい」
笑顔で挨拶を終えると、お姉さんの後について細道を進む。お店の横手についた勝手口を入ると、そこはもう秘密の本拠地だ。
「やあ瀬莉ちゃん、おはよう」
大きな木机の前に座っている大学生のお兄さんも笑顔で瀬莉を迎えた。
全員が腰かけると、何か他愛ない話題が飛び出すかといえば、そうではない。
瀬莉はリュックから工具を取り出す。挨拶もそこそこに、彼らは三者三様黙々と、作業を開始した。
今から半年ほど前のこと。
壊れた時計を扱うジャンクショップで瀬莉は品定めをしていた。
彼女の趣味は時計いじり。将来の夢は時計職人だ。こうやって週末ジャンクショップを巡っては、パーツ取り用の時計を探している。
（あった！）
目的の時計が見つかるや否や駆け寄って手を伸ばす。
「あっ……」
まさにタッチの差。瀬莉に伝わったのは、眠った懐中時計の冷たい金属の感触ではなく、人の温もりだった。彼女より先に、女性がパーツに手を伸ばしていたのだ。
「あら」
女性が見せた瀬莉への眼差しは、子どもに対する愛想よりも、同じ趣味を持つ仲間を見つけた喜びに近かった。
ジャンク時計たちを前にふたりは話に花を咲かせる。もちろん話題は時計いじりに関してだ。
そのときの女性こそが、今同じ大机で時計いじりをしている、木天蓼大学芸術学部のお姉さんだ。この古びた工房は学部生たちのたまり場であり、さらには完成品の並んだギャラリーにもなっている。
今、瀬莉は、学部生たちの共同作品の、時計パーツを使った立体造形の手伝いをさせてもらっていた。これが楽しくて仕方がない。ジャンクショップでお姉さんと出会って以来、週末のほとんどをここで過ごしている。
「そうだ」
作業の集中が途切れ、ちょっと一息入れましょうとお姉さんがお茶を淹れてくれたとき、お兄さんが瀬莉に言う。
「次の日曜、うちの卒業生の人が見に来るんだよ」
「え、どんな人！？」
瀬莉は目を輝かせる。今度はお姉さんが話を継いだ。
「造形作家さんでね。ここのことを話したら見てみたいってことになって。瀬莉ちゃんのことも話したら興味を持っていたよ。ぜひ来週も来てね」
「おー！」
プロの造形作家さんの技術を生で拝見できるまたとないチャンス。来週も絶対来るぞと決意する。
この秘密の時計工房に出会えたおかげで。瀬莉は順調に大人の世界を知り、そして芸術家としてのつぼみも開こうとしている。同級生たちより少しおませさんなのも、当然のことかもしれない。
（よーし、来週までにもう一つ完成させるぞっ！）
刺激を受けた瀬莉の腕はさらに加速する。
早く、でも丁寧に、ボクたちを創っておくれ！
完成間近の時計人形は、まるで命を吹き込まれたように、瀬莉に語りかけてくる。
「うん、任せて！」
瀬莉の勢いに負けじと、芸術学部生たちの動きにも磨きがかかった。
取り囲む作品たちが、未来の芸術家たちを密やかに見守っていた。
日曜日の朝。佐藤 瀬莉は豪奢な扉を元気よく開けて家を飛び出した。
平日よりもちょっと早い外出。休みの市街地はまだ眠ったような静けさを横たえている。
瀬莉が地面を蹴るたび、背中のリュックがカシャカシャと、静寂を正すように音を立てた。
朝一番の寝子電に飛び乗り、星ヶ丘の一等地を後にする。
窓の外を行く人たちを見ながら、瀬莉はふと思った。
（あたしみたいな秘密を持った人、あの中にどのくらいいるんだろう？）
寝子島駅に着くと、またカシャカシャが勢いよく町を駆け抜けた。
参道商店街入り口で一息つく。ここからはゆっくり、気持ちを整えて進もう。
「最近瀬莉ちゃん、大人びてきたんじゃない？」
同級生から言われたのは金曜日の放課後だ。
「えー、そんなことないよ」
とっさにそんな言葉が出て笑ってみせたが、瀬莉はすぐに理由が分かった。
（秘密を持っているのが、大人なんだ）
商店街を少し進んだところで路地を一本折れる。昔ながらの商店街は、路地へと逸れれば逸れるほど、懐かしいにおいのする景色が増した。子どもの瀬莉にとっては誰かの受け売り。でも、そう感じる瞬間を持てることが、大人への近道なんだと、なんとなく思っていたりもする。
看板も何もかかっていない、一見するとだいぶ前に閉じたであろう、古いお店。入り口のガラス木戸には日焼けしたカーテンがかかっていて中はうかがえない。前を通る誰もが、その存在にすら気づかないような、こじんまりとした外観だ。
ここが瀬莉にとっての秘密の場所。
呼び鈴を鳴らしてしばらくすると、お店と隣家の間に立つ細長いレトロな戸が開いた。
顔を出したのは、瀬莉よりも少し年上、といっても、大学生くらいのお姉さん。しかし瀬莉にはかなり大人びて見える。
「今日も来たのね、いらっしゃい」
笑顔で挨拶を終えると、お姉さんの後について細道を進む。お店の横手についた勝手口を入ると、そこはもう秘密の本拠地だ。
「やあ瀬莉ちゃん、おはよう」
大きな木机の前に座っている大学生のお兄さんも笑顔で瀬莉を迎えた。
全員が腰かけると、何か他愛ない話題が飛び出すかといえば、そうではない。
瀬莉はリュックから工具を取り出す。挨拶もそこそこに、彼らは三者三様黙々と、作業を開始した。
今から半年ほど前のこと。
壊れた時計を扱うジャンクショップで瀬莉は品定めをしていた。
彼女の趣味は時計いじり。将来の夢は時計職人だ。こうやって週末ジャンクショップを巡っては、パーツ取り用の時計を探している。
（あった！）
目的の時計が見つかるや否や駆け寄って手を伸ばす。
「あっ……」
まさにタッチの差。瀬莉に伝わったのは、眠った懐中時計の冷たい金属の感触ではなく、人の温もりだった。彼女より先に、女性がパーツに手を伸ばしていたのだ。
「あら」
女性が見せた瀬莉への眼差しは、子どもに対する愛想よりも、同じ趣味を持つ仲間を見つけた喜びに近かった。
ジャンク時計たちを前にふたりは話に花を咲かせる。もちろん話題は時計いじりに関してだ。
そのときの女性こそが、今同じ大机で時計いじりをしている、木天蓼大学芸術学部のお姉さんだ。この古びた工房は学部生たちのたまり場であり、さらには完成品の並んだギャラリーにもなっている。
今、瀬莉は、学部生たちの共同作品の、時計パーツを使った立体造形の手伝いをさせてもらっていた。これが楽しくて仕方がない。ジャンクショップでお姉さんと出会って以来、週末のほとんどをここで過ごしている。
「そうだ」
作業の集中が途切れ、ちょっと一息入れましょうとお姉さんがお茶を淹れてくれたとき、お兄さんが瀬莉に言う。
「次の日曜、うちの卒業生の人が見に来るんだよ」
「え、どんな人！？」
瀬莉は目を輝かせる。今度はお姉さんが話を継いだ。
「造形作家さんでね。ここのことを話したら見てみたいってことになって。瀬莉ちゃんのことも話したら興味を持っていたよ。ぜひ来週も来てね」
「おー！」
プロの造形作家さんの技術を生で拝見できるまたとないチャンス。来週も絶対来るぞと決意する。
この秘密の時計工房に出会えたおかげで。瀬莉は順調に大人の世界を知り、そして芸術家としてのつぼみも開こうとしている。同級生たちより少しおませさんなのも、当然のことかもしれない。
（よーし、来週までにもう一つ完成させるぞっ！）
刺激を受けた瀬莉の腕はさらに加速する。
早く、でも丁寧に、ボクたちを創っておくれ！
完成間近の時計人形は、まるで命を吹き込まれたように、瀬莉に語りかけてくる。
「うん、任せて！」
瀬莉の勢いに負けじと、芸術学部生たちの動きにも磨きがかかった。
取り囲む作品たちが、未来の芸術家たちを密やかに見守っていた。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2016年06月10日
- 参加申し込みの期限
-
- 2016年06月17日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2016年06月17日 11時00分
