空飛ぶピラニア｜リアクション

空飛ぶピラニア

【２】

「さ、さめだー！　違う！　ピラニアか！」
「な、何故、ピラニア！？」
　荒れに荒れる空から降り注ぐピラニアに、桜庭円と御剣刀は声を上げた。
　慌てて、近くの喫茶店に駆け込む。
　ホッとしたのも束の間、窓にビタンビタンとピラニアが当たってきた。
「……っ！」
　今日は二人で映画の鑑賞会をしようと待ち合わせていたのに。
　気がつけば別の世界に取り残され、いきなり大ピンチの状況に直面する羽目に。
「また神魂かよ！　テオ、テメエいい加減にしろよ！　手抜きすぎだろ！！」
「くそ！　ニャークネード３見るつもりだったのに！」
　むむむと唸り、円はリュックに入れたＤＶＤに目を落とした。
「うーん、不完全燃焼なんだよなぁ……。刀くん、刀くん、ＤＶＤ見たい！」
「はぁ！？　桜庭、お前この状況でまだＤＶＤ見るのかよ、正気に返れよ！」
　ポンポンと肩をたたく彼女に、呆れ顔の刀である。
「見たいもんは、みたいんじゃい！」
「この状況じゃあ電気通ってねえよ！」
「でもほら、病院なら予備電力が……！」
「病院？　あーなるほど、そういうことなら……って！　行かねえよ！！」
「えー！！」
「えーじゃねえし！　そこ行くなら、ｍｉａｏに行く！　食い物もあるだろうしさ！」
「じゃあ、ｍｉａｏでいいよ！」
　でも……と言って、円は刀の顔を覗き込む。
「怒るからね！　本気で、ｍｉａｏでＤＶＤ見れなかったら本気で怒るからね！」
「あーはいはい、怒れ怒れ。そこまで責任持てませーん」
　とりあえず、どこに向かうにせよ、何か武器が必要だ。
　ということで、刀は喫茶店で見つけた鍋を被って、蓋を盾代わりに。
　それから、いい感じのすりこぎを見つけて、軽く素振り。結構、手になじむ。棍棒代わりに使えそうだ。
　円はフライパン２個と包丁を見つけた。丁寧に新聞紙で包んでから、リュックに押し込む。
　それから、キッチンをひっくり返して、使えそうなものを見繕っていった。
「確か、シーサイドタウン駅は……」
　円は寝子島の地図を頭の中に思い浮かべる。
「あれだね、寝子島駅から線路の上を進むといいかも」
「線路？」
「２９９号線の上を通るはずだから、多少のリスクはあるけど、猫又川通るよりはいいかもしれない」
「そうか。じゃあ、そうするか」
　相変わらず、窓にはピラニアがビタンビタンと音を立てて当たってきている。
　ドアを開けたら、戦闘開始だ。覚悟を決めて、刀はノブに手をかける。
「かたなくーん、ボクを守ってくれるよね！」
「守る？　ボクシング部の奴に、今更俺の護衛なんか必要なのかよ？」
「ちょっとー！　一応、女子なんですけど！」
「ははっ、冗談だって。……まあ、放ってはおけないしな。守る努力だけはしてやるよ……！」