空飛ぶピラニア｜リアクション

空飛ぶピラニア

【10】

「……前言撤回。映画、キツい……」
　うう、と修は顔面を押さえて、テーブルに突っ伏した。
　ソファの上は屍累々。家電売り場から運び込まれたプラズマテレビの光が屍を照らしている。
　ここに来てから、早三日。
　暇さえあれば、円とブリジットが映画を流すので、だんだん頭がおかしくなってきた。
「えー、なんで？　こんなに面白いのにぃ！」
「桜庭、この映画つまんねえよ！　なんでこんなにたくさん持って来てるんだよ！」
　げっそりした顔で、刀は叫んだ。
「つーか、なんで魚の出てくる映画ばっかなんだ！」
「それは……気分？　ねー」
「ねー。Ｂ級映画は大体サメだよねー」
　なぜか、サメとかピラニアをエンドレスで見続けても、円とブリジットだけは元気だった。
　そんなに魚が嫌なら……と円はリュックを漁る。
「これ！　Ｂ級映画の生んだ狂った傑作『ニャクトパス』！」
「待て！　絶対、それ魚介類が出てくる！」
『……お前ら、ほんとくだらねぇ時間の潰し方してんな』
　不意に聞こえた声に、はっとみんな顔をあげる。
　気がつけば、ソファの間にテオがちょこんと座っているではないか。
『映画見てるからつい俺まで見ちまっただろうが。あー、つまんねぇ映画で時間無駄にした』
　口をぱくぱくさせるみんなをよそに、テオはテーブルにぴょんと飛び乗る。
『お前ら、もう台風がどっか行ったのにも気づいてねぇだろ？』
「え……？」
　誰かが口を開いた瞬間、ぱっとあたりが白い光に包まれた。

　＊＊＊

　晴れ渡る空。
　雲ひとつない澄んだ青空が視界にいっぱいに広がる。
　ここは寝子島の参道商店街。いつもと変わらない賑やかな街並みがそこにあった。
「テオは……？」
　気がつけばもう、彼の姿はどこにもいなかった。
　猫が往々にしてそうであるように、相変わらず、神出鬼没で気まぐれなやつである。
　ともあれ、どうにか今回の危機は脱したようだ。
「せっかくのＢ級映画祭りももう終わりかー」
「ニャクトパス見たかったなー。あ、じゃあさ、円。うちで一緒に見ようよ」
「それ最高だよ、ぶりちゃん！　実は宇宙ピラニアの映画も持ってきてるんだ！」
「まだ見るのかよ！」
　はしゃぐ円とブリジットに、思わず刀も突っ込む。
　その横で、修はびくっと肩を震わせた。
「もう、魚は見たくない……」
「あわわ、気を確かに修くん……！」
　ぷるぷると震える彼を、みゆきが揺さぶった。
　何か別の意味で、ピラニアが心に傷を残したようである……。
「……私は早くおうちに帰ってお風呂に入りたいですー」
「私もです、梢ちゃん。ずっと身体を拭くことしかできなかったので……」
　梢といおねは、はぁと安堵のため息。
「自分は早く自分の布団で寝たいなぁ。あのベッドもよかったけど、やっぱりうちの布団最高だよぉ」
　ふわわぁとあくびをしながら言うのは寝太郎。
　ふと、寝太郎はさゆるが輪から外れて、何かを見ているのに気づいた。
「あれ？　朝鳥さん、何見てるの？　なんかある？」
「……あれ」
　さゆるの指差す方向を見て、みんな目を丸くした。
「やあ、みんな。三日ぶりかな。元気だった？」
　なにやらボロ雑巾のようなものが、手を振っている。
　いや、ボロ雑巾じゃない。ボロボロの着ぐるみをまとった、すばるだ！
「い、生きてた！！！！」
「なかなか大変だったよ。ボクがバリツの使い手じゃなかったら、生きて戻れなかっただろうね」
「ど、どーやって？」
「マンホールに落ちて大丈夫だったのか！？」
　駆け寄ってくるみんなに、すばるはニコリと微笑む。
「気になる？」
　得意の推理を語る名探偵のようにウインクする。
「如何にして新井すばるは帰還したのか。じゃあ、謎解きをしていこうか」

　おわり

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あとがき

担当マスター：梅村象山
ファンレターはマスターページから！

マスターの梅村です。
シナリオにご参加いただいた皆様、ありがとうございました！

完全にＢ級映画臭の香り立つシナリオでしたが、
Ｂ級映画のノリをわかっている皆さんが集まってくれて、
なかなか楽しいお話になったのではないかと思う次第です。
皆さんにも楽しんでいただけたのなら、何よりです……！

それでは、また別のシナリオでお会いしましょう！
梅村でした。

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