【星幽塔】第一階層　サジタリオ城攻略戦｜リアクション

【星幽塔】第一階層　サジタリオ城攻略戦

【奇襲班、行動開始】

　サジタリオ城北東部。

「……どうやら正面突破組のみなさんが行動を開始されたようですねぇ」

　眼鏡の向こうの目を細めるようにして言ったのは奇襲組の一人、齋藤智照だった。

「こちらの見張りの数はそう多くなさそうですが、注意するに越したことはないでしょう。あたりには普通なら捕食者にまわるであろう動物が何者かに食い散らかされた跡もありますし……」

　ぽつり、と怖いことを言ったのは巫女装束風の法衣を身にまとった都府楼暦である。
　法要のための豪奢な法服に身を包んだ智照と並んで西洋的な城の前に立っている姿はどこか和洋折衷の趣がなくもない。

「うわー、オッカナイなー。でも、みんなで力をあわせて戦えばきっと大丈夫ダヨネ！」

　ことさらに明るい声でそう言ったのは、みんなのムードメーカー志波武道だった。
　何も考えていないように明るく振る舞いつつ、常に最後列に位置し、しんがりで仲間に気を配る彼は奇襲組の皆のお兄さん的存在とよべるかもしれない。
　そんな武道はそっと崩れた城壁の欠片をいくつか拾いながら、ゆっくりと仲間達の後ろをついて歩く。

「じゃあ、私達もそろそろ行きましょう。まず私が先に行って、安全を確認してからみんなを誘導するわ」

　暗がりの中で、崩れた城壁の向こう側を覗いていた水上桜が仲間達を振り返って言った。
　桜の手には星の力（狩人）が実体化したクロスボウが握られている。できる限り敵との交戦は避けて行動し、避けられない敵がいるならまず自分が矢を射かけて、そこに仲間の突撃を重ねるというのが彼女の提案した作戦だった。

「僕も水上さんと一緒に先行するよ。星の力と、ろっこんの力でうまくサポートできると思う」

　茶色の猫マフラーに顔を少し隠しつつ、恵御納夏朝が前へ一歩進み出て言った。彼女の手には星の力（盗人）が実体化したギミック内蔵型の手甲が装備されている。彼女もまた先行役には適任かと思われた。

「むー。俺もそっちに混ぜてもらおうかなー。戦うよりは潜入の方が向いてると思うし……。あと、城のまわりにいるらしい黒い影にも気をつけていこうぜー」

　パッと見には小柄な少女にしか見えない――だが、れっきとした男子である――――来島アカリもまたきょろきょろと周囲を見渡しつつ、先行役を買って出た。手にしているのは星の力（魔水）が実体化した大型の杖だ。

「孤立している敵を見かけたら僕に知らせてくれ。ろっこんで眠らせて無力化し、仲間を呼ばせないようにするからさ」

　日暮ねむるは少し眠たげに欠伸を噛み殺しつつ、星の力（魔火）が実体化した篭手に包まれた手を持ち上げて見せた。

「城壁は見張り台の役割をかねている。僕はまず城壁の上の敵を始末して、最低限の安全を確保しよう。戦闘は最小限。基本は隠密行動で、ね」

　サキリ・デイジーカッターは星の力（剣士）が実体化したマチェット（薙ぎ払いに主眼を置いたやや長めのナイフのような刃物）のグリップを握りながら、城壁の上に視線を走らせる。
「……万が一、戦闘になった場合、空を飛んでいる奴は任せる。飛びかかれば倒せないこともないが、体力はできるだけ最後に温存しておきたいんでな。ゴブリンとガルムは――任せろ」
　添星叡知はそう言うと、犬歯をガチンと噛み鳴らし、《セイギノキバ》を発動してサーベルタイガーに姿を変えた。鋭く尖るその牙から星の力（剣士）の輝きが感じられる。彼は愛想こそ悪いが、人間が嫌いなわけではなく、このような場合において仲間と協力することはやぶさかではなかった。
　奇襲組は耳を澄ませる。
　すでに城内は騒然としていて、こちら側の守りは相当手薄になっていることが肌感覚で感じ取れた。
　彼らは視線と視線で頷きあうと、揃って城内への侵入を開始した。

　　　＊　＊　＊

　その少し後方から、星の力（癒し）の宿した右目で一行の様子をこっそりと見つめる者がいた。

「……にしし。正門の部隊を陽動とした奇襲部隊。その奇襲部隊もまた陽動に使って、あっしは一足先に竜の財宝をちょろまかせて頂きますよぃ」

　貪欲なる喜劇の愛好家――骨削瓢である。
（面白そうな方へ動く、というのが、あっしの信条。単独行動には危険がつきものですが、大きく得体ならリスクは背負わないとねぇ……）
　ひょいひょいと物陰から物陰へと移動しつつ、城下町で買ったランタンとナイフを手に、瓢もまた作戦行動を開始した。

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