寝子島少年科学団の、バック・トゥ・ザ・クリスマス｜リアクション

寝子島少年科学団の、バック・トゥ・ザ・クリスマス

【ふたりのワンシーン】

「動物園で写真撮影？　うんっ、行く行く！」
　新聞部の取材のため、というのはいわゆるひとつの、タテマエではありましたけれど。そう言って誘ってみると、七夜あおいは喜々として、同行を申し出てくれました。
　またたび市動物園の園内には、このところの冷え込みにも関わらず多くの人があふれて、わいわい。動物たちの賑やかな鳴き声も相まって、実に楽しい空気が満ち満ちております。
「それじゃ、まずは草食動物・鳥類エリアを回ってみよう。その次はふれあい広場で、ウサギやハムスター、モルモットを抱いてみるのはどうだ？」
「賛成ー！」
　カメラを構えた八神修は、まずは一枚、笑顔のあおいをぱしゃり。可愛らしい動物たちにはしゃぐ彼女を眺めているだけで、修もまたほくほく、頬が緩んでしまうのです。
　冬の風が運ぶ冷気は身に染みて、ちょっぴり肌寒いものの、
「あおい。これ、すごく暖かいよ……ありがとう」
「ほんと？　良かった、気に入ってくれて」
　修の首にくるりと巻かれたマフラーは、先月のクリスマスに、あおいから贈られたもの。プレゼント交換をしないか、と修が持ちかけたところ、『えっ交換？　面白そうね、やろうやろう！』なんて乗り気で、このふかふかマフラーをプレゼントしてくれました。品物としてはあまり高い物ではありませんけれど、それがあおいに手渡されたものであると思うなら、ぽかぽか！　これでもかと首回りはあたたかく、寒さもいつのまにやら、どこかへ吹き飛んでしまいました。
「あっ修君、キリンがいる！　一緒に写真撮って撮って♪」
「おいおい、そんな風に走ると、滑って転ぶぞ？」
「だって、楽しいんだもん！」
　にこにこ、開けっぴろげで自然な笑顔をファインダーに収めて、ぱちり。ぱしゃり！　シャッターを押すたび切り取られてゆく、素敵なワンシーン。修にとってはその一枚一枚が最高の、至福のショットです。
　動物たちの癒しパワーのたまものでしょうか、いつになく浮かれたあおいを追う修の足取りもまた、自然と軽快に弾みます。

　動物園の一角にある、休憩所にて。あおいが取り出したお弁当を目にするなり、修は嬉しくなってしまいました。
「それ、使ってくれてるんだな。嬉しいよ」
「うん、これすごく便利だよ？　あらためて、ありがとう修君」
　可愛いお弁当箱は、件のマフラーと交換に、修がプレゼントしたものです。
　ぱか、と蓋を開いたなら目に入る、色とりどり、鮮やかなメニューたち。それらはあおいの手作りで、少なくとも見た目には整っていて、大変に美味しそうです。
「修君のアドバイスも、たくさん取り入れてみたんだよ。味見してみて？」
　どうぞ！　と勧められて、修はさっそく鳥の唐揚げをひとつ箸で取り上げて、ぱくり。口に含みますと、
（……うっ）
　何ともこう……えもいわれぬ味。苦いのか、しょっぱいのか、甘すぎるのか辛すぎるのか……良く分からない、強烈な味！
　とはいえそれも、予想の内。修は顔に出さないまま、
「うん。確実に、上達してるな。ジューシーで美味いよ」
「ほんと？　良かったぁ……」
「ただ、少し調味料を使いすぎかもしれないな。醤油と酒、みりんで軽く下味を付けて……」
「ふんふん、なるほど！」
　いつも前向きな彼女に、さりげなく改善点を伝えてあげるのも忘れずに。
　あおいのどうにもキビシイ料理の腕前は、先刻承知済み。その上で、もっと上達したいと頑張っているあおいを、修は常に応援してあげようと心に決めているのです。
「そういえば、この前もらった葉書に写ってたのは、実家の写真か？　あおいにとっての、郷土料理にチャレンジしてみるのも良いかもしれないな。うん、食べてみたい」
「あっ、それも良いかも！」
　もちろんその時にはまた、味見役を買って出るつもりです。必要ならレシピを探してあげたり、一緒にキッチンに立ってサポートしてあげたり……何だって、支援は惜しまないつもりです。
　修はいつだって、そんな風に一生懸命なあおいが、大好きなのですから！