寝子島少年科学団の、バック・トゥ・ザ・クリスマス｜リアクション

寝子島少年科学団の、バック・トゥ・ザ・クリスマス

【カムバック・クリスマス！】

　ちらほら。はらはら。降り落ちるのは白くて淡い、儚げな雪。
　風の原公園の樹々をうっすら、白く染めていくその光景はとっても綺麗で、何だか幻想的……なのですけれど。はふん、と深くため息をついた鬼河内萌の表情は、どうにも冴えません。
「……というわけでね。ボクのお願い、叶わなかったんだよ……！」
「なーるほどのう。そいつは残念じゃったのう」
　うむうむ、と訳知り顔でうなずいたのは、恰幅の良いおじいさん。寝子島少年科学団のひとり、女好きで知られるコペルニクスさんであります。いまひとつ元気がない萌を労わり、話を聞いてあげているようです。
　はふん、ともひとつため息。萌は嘆きます。
　思い浮かべるのは想い人たる少年の、あっけらかんと軽いノリ。何だか憎めない、あの明るい笑顔……つまるところ、恋する乙女の悩みときたらこれがなかなか、尽きることが無いわけでして。
「はあ。きっとボク、サンタさんからも、落神からも嫌われてるんだ……！　こうなったらもう、科学の力に頼るしかないよっ！！」
「うむ、うむ！　科学にはいつだって希望が満ちあふれとるし、万能じゃからのう。お前さんは正しい！」
　がしゃがしゃ、がしゃこん！　今、目の前で組み上げられていく謎の機械こそが、そのお願いを叶えてくれるものであるのだと、コペルニクスさんは語るのです。
「この『ソラリス・コンバーター』はの、人間が抱いとる潜在的な願望を読み取って、そいつが叶ったっちゅうステキーな夢を見せてくれる機械でのう？　まぁ本当に願いが叶うわけじゃあないが、ちびっとくらいは気も晴れて……」
「それって、マジかよ！」
　びっくん！　唐突な声に、飛び跳ねたコペルニクスさん。
「あっ……ユウくん！？」
　萌の瞳はたちまち、きゅんと熱っぽく潤みます。
　何しろその声の主こそが、彼女の想い人……野菜原ユウ、その人でありましたもので！

「面白そうな話してるじゃん、鬼河内。俺も混ぜてくれよ～」
　話を聞くなり、ユウはすっかり乗り気です。
　そんな彼を、萌はじぃっと見つめます。思い出すのは、先月のクリスマスのこと。
（ユウくんのお願いって……結局、何だったんだろ？）
　あの『サンタ★ポスト』へと、ユウもまた何かお願いごとをしていたらしいことを、萌は知っていました。その内容までは、教えてはもらえませんでしたけれど……とはいえ萌にとって、それはさして重要ではなかったりします。
「ねえ、ユウくんのクリスマスのお願いは、叶ったの？」
「ん？　ああ、あれねー。いやぁ良く考えたら、叶うわけねーよなぁって……」
「だったら、この機械で……叶えてみようよ！　一緒に！」
　萌にもまた、切なるお願いはありました。けれど、思います。
　好きな人の願いが叶うのなら、それもまたきっと、嬉しいこと……素敵なこと！
「おいこらコペルニクス！　ワシらに任せっきりにしとらんで、ちっとは手伝わんか」
「はよこっちゃ来んかい、スケベジジイめが」
　がしゃがしゃと機械をいじくる、小柄なアインシュタインさん、背高ノッポのエジソンさんが急かすと、
「何おう？　ワシゃこうして、実験台……じゃないちょうど良く悩める若者をな、見繕っとったんじゃい。ちゅうわけでお主ら、試すかの？　ワシらの大発明をのう！」
　萌とユウは、顔を見合わせて。こくり、ひとつうなずき合って、
「……いこっ、ユウくん！」
「おう、そーだな。試してみようぜ！」
　ぱたぱたと、ふたり並んで一緒に、奇妙な機械のもとへと駆けていきました。

　やがて……ごうんごうんごうん。科学団謹製マシンはやかましい音を立て、がたがたと揺れながらに動き始めます。

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