寝子島少年科学団の、バック・トゥ・ザ・クリスマス｜リアクション

寝子島少年科学団の、バック・トゥ・ザ・クリスマス

【あなたのために】

　何やらにわかに、季節外れなクリスマスムードが流れる、本日の寝子島。
　クリスマスと言えば、宮祀智瑜にはひとつ、大いに心残りがありました。
（ああ、私のバカ）
　タイミングを逃して渡しそびれてしまった、プレゼント。あたたかい手編みの手袋。もちろん、クリスマスの当日に渡すつもりだったのですけれど。
（だって、まさかあそこで会えるだなんて、思ってなかったんだもん）
　とはいえあの日は、悪いことばかりではなかったのも確かです。プレゼントこそ渡せなかったものの、大好きな先生と一緒に眺めた、あの美しい夜景。はしゃぐあまりによろけた拍子に、肩を支えてくれた、力強い手のひら。間近に感じた、彼の吐息。
「ああ……今日は冷えるな」
「そうですね。義弘先生……」
　そう。こんな風に彼が隣にいてくれる、素敵なひと時……。
「…………って、義弘先生！？」
「奇遇だな、宮祀。何をぼーっとしていたんだ？　また転んでしまうぞ」
　たまたま立ち寄った、シーサイドタウンの一角にて。思い出に浸る智瑜の顔を覗き込んでいたのは、桐島義弘先生、その人でありました！
「よ、義弘先生、どうしてここに？」
「所用でな。ふむ……しかし今日は、なぜどこもかしこも、クリスマスのような飾り付けがされているんだ？」
　きらきら、ぴかぴか。瞬くイルミネーションが、先生の凛々しい横顔を、七色に照らします。あの夜に、マスクの下から現れたのと同じ、精悍な彼の顔を。
　とくとくと鳴る胸。智瑜は思わず、ぎゅう、とカバンを腕に抱き込みます。あの日に渡しそびれたプレゼントが、そこにはありました。

　ぴりりと冷える１月の空気の中、ふたりはしばし、あたたかなおしゃべりのひと時を。話題は概ね智瑜が切り出して、義弘先生はそれを律儀に聞いてくれています。
　他愛のないやり取りの中で、智瑜は、先生がしきりに両手をこすり合わせているのに気づきました。顔には少し赤みが差して、息は白く、ぽかぽかとあたたかい恰好の智瑜に比べて、少々寒そうです。
（……！　そうだ……）
　ぴん、と、智瑜は気付きました。
　あの時は逃してしまった、これはもしや、チャンスなのでは……！
「あのっ、義弘先生。手、冷たいですか？」
「ん？　ああ、そうだな。今日はずいぶんと冷えるな……」
　と言った先生に、こくりとうなずいて。
　少し緊張しながら、カバンをごそごそ。それが手に触れると、智瑜は緊張しながらも意を決して……しゅばっ！　差し出しました。
「……先生！　これ、使ってくださいっ」
　色は落ち着いた、シックなグレー。甲の部分には白い毛糸で、雪の結晶と、可愛らしい雪だるま。
　渡しそびれていた、手編みの手袋。
「いや……宮祀、気持ちはありがたいが。こういうのはな……」
　もちろん、教師と生徒。その壁があることは、智瑜も分かっています。生真面目な彼の性格だって、十分理解しています。だからこそ、
（真面目で、ちょっと可愛らしいところもある、先生をイメージして編んだんですよ）
　とは、口に出しませんでした。言ってしまったら、受け取ってはもらえないかもしれません。
　代わりに、
「使ってください。だってこれじゃ、先生の手が、しもやけになっちゃう……！」
「……ああ。分かった。確かに少々、辛かったところだ」
　先生は手袋を受け取ると、きゅっと両手にはめてみて、うむっとうなずきました。
「なるほど、あたたかいな」
「はいっ、手先までぬくぬくです！」
「そうだな……ありがとう、宮祀」
　半ば、押し付けてしまうような形ではありましたけれど。それでもようやく渡すことのできた、ちょっぴり遅いクリスマスプレゼント。それが今、先生の大きな手をぴったりと包み込んでいるのを見つめて。
　智瑜は自分の胸までもじんわりと、あたたかくなっていくのを感じました。