寝子島少年科学団の、バック・トゥ・ザ・クリスマス｜リアクション

寝子島少年科学団の、バック・トゥ・ザ・クリスマス

【バースデイ＆クリスマス】

　にーんまり！　おじいさんは笑います。
「クリスマスに、叶わんかったお願いは無いかの、お嬢ちゃん？」
　こくりと首を傾げた、月守輝夜。その脳裏に、思い浮かぶ顔がありました。明るく朗らか、ちょっといい加減にも見えるけれど、何だか気になるあの笑顔。
「クリスマスの、お願い……」
　輝夜には確かに、叶わなかったお願いがありました。
　クリスマスと重なった、自分の誕生日を、誰かにお祝いしてほしい……。

「おっ！　偶然だなー月守、ホワット・アー・ユー・ドゥーイング？」
　そして気付くと目の前には、にかっ！　笑みを浮かべた、青木慎之介の顔。
「……慎之介くん？」
「イエス！」
　街角でばったり、顔を合わせたふたり。慎之介の首には、輝夜がプレゼントしたマフラーが、ふわりと揺れています。
「今日もベリーコールドだけど、このマフラーのおかげで、俺はホットだぜ！」
「うん、気に入ってくれて良かった……慎之介くんは、何してたの？　どこに行くところ？」
「俺？　俺は、スケーティングに行こうかと思って」
　彼は近くにあるスケートリンクへ、スケートをしにいくのだと言いました。
　輝夜はちょっぴり、思案顔。ばったり偶然、この出会いをただのすれ違いで終わらせてしまうのは、何だかもったいない気がします。せっかくだから、もう少し一緒にいたい……そんな風にも思えます。
　やがて顔を上げると、輝夜は寒気に赤らんだ顔を緩ませて、言いました。
「ね。私も、一緒に行っていいかな……？」
「リアリー？　もちろんだぜ！　ひとりで滑るより、フレンドと一緒のほうが楽しいもんな！」

　手袋越しなのが少しだけ、恨めしく思えてしまいます。つるつる滑るリンクの上で、ふとバランスを崩してしまった拍子に、むぎゅっと繋いだ手のひら同士。
「オーライ？　月守」
「う、うん。ありがと、慎之介くん」
　それでも彼のあたたかさは伝わって、どきどき、輝夜の鼓動は早まりました。
　そうしてしばらくスケートを楽しんだら、並んでベンチに腰掛けて、少しばかり休憩タイム。
　スケート場の中を見回すと、１月も半ばだというのに、なぜだか飾り付けはクリスマスムード。今日の寝子島は、何だか突然、時が巻き戻ってしまったかのよう。
　ふたりで、不思議だね？　なんて話していたら……唐突に。はっとした顔を浮かべた慎之介が、申し訳なさそうに、輝夜へ言いました。
「あー……メリークリスマス！　アンド、ハッピーバースデー！」
　どきりと。輝夜の胸がひとつ、弾みます。
「慎之介くん……？」
「ソーリー、月守！　俺の誕生日、お祝いしてくれたのに……月守の誕生日、すっかり忘れてて。クリスマスと同じだったんだよな……だから遅くなったけど、ハッピーバースデー！」
　輝夜もどこか、やきもきとしていたのは確かです。彼が自分の誕生日をお祝いしてくれたなら、どんなに嬉しいことか……どうやら忘れられてしまったらしいことを、悲しく思っていたのです。それでも、彼は部活やら何やらで忙しいから、仕方が無いことだから……そう、自分に言い聞かせていたのです。
　だと言うのに。彼の言葉を聞いた途端に、輝夜は思わず、くすりと笑ってしまいました。
「つ、月守？　ノット・アングリー？」
「ふふ……怒ってないよ。あっ、ううん、ちょっと怒ってるかも？　私の誕生日、忘れちゃうなんて。だから……お詫びに」
　少うし、上目使い。輝夜は悪戯っぽく、おねだりを。
「シーサイドタウンの、大観覧車。おごってくれる？」
「そのくらい、ノープロブレム！　だぜ！」
　ふたりはスケートリンクを後にすると、遠くに見える観覧車に向かって、並んでゆっくり。他愛のないおしゃべりを交わしながら、歩いていきました。