無機質ワールドとオカシな戦士｜リアクション

無機質ワールドとオカシな戦士

【辛党と『お約束』】

　その頃、辛党と無機質警備隊が戦うシーサイドタウンの方では。
　リッカルドの雇われ傭兵――優木遥斗が愛用の無機質竹刀を手に、数の上で勝るねむる達に対して、獅子奮迅の戦いぶりを見せていた。
「く……バカな……！　我々のタバスコ入り水鉄砲が利かないだと！」
「腹が、減った」
　辛党信者の無駄に熱い台詞をナチュラルにスルーしつつ、遥斗がスパンと竹刀を振るうと一人、また二人と辛党信者が無機質化して地面に倒されていく。
　どうやら遥斗にはタバスコによる洗脳説教が通じないらしい。口の中にタバスコ入り水鉄砲が入っても、「……辛い」と呟くばかりで、顔色一つ変えようとしないのだ。
　そんな遥斗に対し、タバスコしか武器を持たない辛党信者達には致命的なディスアドバンテージしかない。
　だが、辛党を信ずる彼らも伊達や酔狂で、あのような暑苦しいキャラになっているわけではなかった。
　というのも、
「どうした、同士達！　心が無機質に傾きかけたら自分の顔に吹きかけろ！　そして隣人に語るのだ！辛党政権こそが、瓢様こそが無寝子島の偉大なる主導者だということを！」
　ひとたび現場指揮官である日暮ねむるがそう命じれば、

「「「イエスユアマジェスティ！！！」」」

　などと言って、彼らは気合と根性で無機質化から立ち直ってくるのである。
　どうやら辛党の教義は想像以上に彼らの性根を暑苦しいものに鍛え上げてしまったらしい。
　そして、
「ふっ。我々辛党に正面から挑んでくる、その意気や良し！　だが、この日暮ねむると対峙してしまった以上、もはや貴様に明日の夕陽は拝めないと知れ！」
　現在辛党の教義によってキャラ崩壊真っ最中のねむるに至ってはもう、ほとんどただの別人だった。
「いけ！　あの傭兵に教えてやれ！　辛党こそが正義！　瓢様こそが神であるというこの世界の真理をッ！」
「「「辛党政権バンザイッ！ヤーーッ！！」」」
　ねむるの指示に、従順で純粋な部下たちが従って、タバスコ入り水鉄砲を抱えて遥斗に突進していく。
　しかし、
「無駄、だ」
　そのあまりに異様な光景にすら表情一つ変えずに、遥斗はまた無質質竹刀で信者達を袋にしてしまう。
「むー。このままじゃ私の出る幕ないじゃない……」
　と、少し不満げだったのは、遥斗の後ろで様子見に徹している羽生碧南だった。
　どうやらリッカルドに自分の活躍が報告できないことが不満らしい。
　と、そのときだった。
「く、やむをえん……！　かくなるうえはこの僕の命に代えても、最終兵器で貴様をタバスコ抜きでは生きられない身体にしてくれる……！」
　ビシィッ、と遥斗に指を突きつけるねむるの目はもう完全にイッていた。
「……最終、兵器？」
　そこに至って、ようやく無表情だった遥斗の眉根が少しだけ動く。どうやら彼なりに警戒しているようだ。
（む……。私の出番かしらね）
　と、碧南は内心でわくわくしつつ、状況を注視する。
　すると、ねむるはおもむろに真っ赤な液体が詰まった水風船とポンプを取り出し
「ふふ。いいか。見てればわかると思うけど、今から最終兵器のチャージをするからな。攻撃するなよ？　絶対にするなよ？」
　ねむるは目を血走らせながら、一生懸命に手動のポンプで濃厚な唐辛子が詰まった水風船を膨らませ始めた。
（いやいや、あいつ本気で頭ヤバいんじゃないの……。あの状態で攻撃しない敵がいるわけ――）
「…………（本当に待っている）」
「真面目かっ！」
　気がつけば、敵の言う事を聞いて待ってあげている遥斗の頭に、碧南はチョップを入れていた。
「……何を、する？」
「それはこっちの台詞よ！　敵の戦闘要員のリーダーを倒す絶好のチャンスに、なんで黙って突っ立ってるわけ！？」
　と、そのとき、遥斗のトランシーバーに通電がある。
『……優木遥斗くん。お手数ですが、迎えを寄越しましたので、今すぐに駅ビルの地下へ向かって貰えませんか？　我々の大事な宝を狙う輩が現れたようです』
「わかりました」
　遥斗は真面目なので、雇い主の命令にはきちんと従う。
　ちょうどそこに迎えの車が来たので、遥斗は風船を膨らましているねむるを放置して、そのまま駅ビルへ戻る。真面目なので。

「え、ちょ、それは真面目って言わな――」

「ふはははは！　待たせたな、これが辛党の開発した最終兵器巨大唐辛子水風船だッ！！！」

　ねむるの狂気に満ちた声がシーサイドタウンに響き渡ったその刹那、

　パァンッ、と何かが弾ける音ともに若い男女の『ぎゃーーーーーーーー！？』という叫び声が島中に響き渡ったそうな。

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