カルティック・レボリューション　武装カルタバトル！｜リアクション

カルティック・レボリューション　武装カルタバトル！

　いち早く飛び出したのは、ロベルト・エメリヤノフ。
直情径行の彼、沸き上がるカルタ力に我慢しきれなくなったか。

（なぜだろう……急にカルタが……。
　いや、決闘（デュエル）がしたくて仕方ない！）

「決闘」に「デュエル」と、さらりカナを振ってしまうあたり、彼もこの場に適任。

　勇躍、競技の盤前に躍り出ると、声を掛けた。

「おい、デュエルしろよ！
　シグレ！　シグレ・ナイトウォーカー！」

　――いつから、そこにいたのか。
　ロベルトの対面、その闇からぬっと碧眼の青年があらわれた。

「――俺に勝負を挑むとは、いい度胸だ。
　面白い。受けて立つ――」
　
　漆黒の髪に痩身。英国の血を感じさせる、優雅で瀟洒なふるまい。
　強烈な印象を残さずにはおれない。
　夜からい出て、夜を纏う騎士、シグレ。

「ゲームと言えども、易々と勝ちを譲る気はないぜ！？」

　異常な状況にあっても彼は常とかわらず、謎めいた微笑を浮かべるのみ。

【第一回戦】
　ロベルト・エメリヤノフ　－　シグレ・ナイトウォーカー

　固唾を飲む音が響く。　
　ロベルトとシグレ。
　性格は対極的であるが、ともに一筋縄ではゆかぬ青年。
　初戦から、最高のカード。

　グリッド上の盤面に、カルタが展開される。
　淡い輝点が、無数に照らし出される。

　ロベルトが読み札を構え、それが戦いの合図となった。

「行くかい？」
　はたして、彼の一手目とは？

　薄く笑って、一気に読み札を読み下した。

「медвежья услуга ！」
「ロシア語か！」

　一同が驚いた瞬間、キリル文字の刻まれた札が高く跳ね上がる！
　宙で光に溶けて、巨大な熊が姿を現した。

『熊の親切』
　爺さんの頭にたかった蠅を払おうとして、ベアクローが決まったという、とんでもない故事から作られたロシアのことわざ。
　効果：熊の召喚

　ロシア人にとって、熊は身近な恐怖であり、災害である。
　その容赦ないパワーはよく知り抜いている。
　カルタ力が薄い序盤で召喚できる中では、飛びぬけて強力な動物だ。

　むろん、それなりの代償が必要。
　むやみに攻撃させては、元の諺の意味「余計なお世話」の如く反動が来る。

　それは判断済み。間髪入れず、ロベルトは別のカルタを取り出す。
「悪女の深情け！」
　おせっかい系の札で相殺、さらに熊を強化する。

　咆哮を上げて突進する熊を、シグレはひらりと跳躍して躱す。
　そのまま札を取り出し、朗々と読み上げる。

「The unexpected always happens. 」

　ロベルトがロシア語なら、此方は彼の祖国が一つ、英国のキングス・イングリッシュ。
　格調高く、リズミカルな諺を、舞台役者のように発声。
　そのまま手にしたエヘで鋭く突く。
　跳ね上げた札を手に取ると、淡い闇のヴェールが、清涼な薫りとともに垂れこめる。

『予期せぬことは常に起こる』
　一寸先は闇。紗幕で姿を覆い隠す。
　入念な演出を施す。
「ショーのような戦いで、皆を愉しませる」というシグレの、徹底した演出ぶりだ。

　ロベルトが熊で突撃を開始。
　息もつかせぬラッシュ。
　その都度弾ける、おせっかい系の札。
「情けが仇！」
「小さな親切大きなお世話！」
「サモワールを持ってトゥーラへ行く！」
「モスクワは涙を信じない！」
「真実は目に痛い！」
「愛は過ぎ去り、トマトもしなびた！」
　怒涛の如く溢れ出てくる、日露両国の諺、故事成語。
　世の無常を伝える、様々なバリエーションの言葉。

　観客席も思わず涙を禁じ得ない。

　危険なジルバのステップのように、かろうじて躱していくシグレ。
　一見すると、ロベルトの一方的な攻勢。
　だが……。

「苦しいかな」

　つぶやいたのは、白真白。
　八神修も頷く。「リソースの問題だな」

　カードゲームは、いかに自分の「資産」を使うかという運用の側面がある。
　カード、ライフ、発動する効果。全て「資産」である。
　いかに自分の資産を減らさないようにするか……。

　ロベルトは熊の攻撃ごとに、カルタを消費している。
　自分の集中力や反射力も、すり減らしている。
　短期決戦で良ければそれでよし。だがシグレは、長期戦を展望に入れている。

「やるね……でもまだまだだよ、シグレ！」

　苦境にあってロベルト、尚笑みを見せる。
　胸元から取り出した札は、それまでの物とは様子が違った。

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