花も恥じらう乙女、腰まで銀髪を伸ばしたアンナ・フジワラも突然声をかけられた一人です。
（水着大会……きっと素敵なお姉様がいるに違いないわねっ！　それだけじゃなく可愛い妹に会えるかも。やるしかないわっ！）
　Ｙｕｒｉに興味があるのはここだけの秘密ですが、そういった動機でアンナは勇気を出して参加することにしました。
「みんな、スタイルいいなぁ……。あたしのこの貧相な体形が憎いっ！」
　アンナは怪しまれないよう気をつけつつ、お姉さまの水着に見惚れています。
（あっ、可愛い子発見！）
　抜けるように色白で前髪ぱっつんの小柄で華奢な少女が、スク水姿で寒そうに自分の体を抱いています。
　アンナは吸い寄せられるように近づいていきました。
「校庭で写生してたら、無理やり拉致されました……。着衣をはぎ取られ、こんなあられもない姿に……」
　スク水の胸には大きくひらがなで『こよみ』と名前が書いてあります。
　そんなことを呟く都府楼 暦に、鼻息を荒くしたアンナは思わず心の声を言葉にしていました。
「む、無理やりはぎ取られ？　なんてうらやま、いやひどいんでしょう！」
「……あなたも無理やり？」
「え、ええ、景品とかにはあんまり興味無いのに、声をかけられてしまって」
　お姉さま目当てだなんて口が裂けても言えない、と思うアンナです。
「生まれつき直射日光に弱くてインドア系なのに、どうしてこんなことに」
　暦は嘆きます。見かけ通りの病弱な美少女……アンナはごくりと唾を飲み込みました。
　しかし暦の口からは、思いがけない言葉が飛び出しました。
「でも、布一枚越しのいけない恋の芽生えの瞬間に立ち会えるかも！？　この寒さをこらえるために……暖めあおう。ふたりの体温で……なーんて」
「え……ええっ？！」
（同好の女子に巡り合えたのかも……）
　アンナの胸にそんな期待がよぎります。
　だって今、いけない恋と言ったじゃありませんか。男子が相手ならそんなことはないはずです。
「ああ、どこかで許されない愛を育んでないかしら？」
（や、やっぱり……！　どこかでじゃないわ、今ここで）
　頬を熱くしたアンナは、いざ暖め合おうと手を広げ、暦に近づきました。
　しかし暦は言葉を続けたのです。
「美少年同士で」
「えっ？」
「……えっ？　何か？」
　思わぬ展開に、伸ばしたアンナの手は行き場を失ってしまったのでした。
「お年玉が見つかったら、次の休みに薄くて高い本を買いに出陣するわ」
　暦は瞳をキラキラと輝かせるのでした。

　女の子たちの水着姿をニヤニヤ眺めるＯＢたちの背後から、バリトンボイスが響きました。
「あら、グラウンドでお祭り騒ぎ？　アタシも混ぜてもらえないかしら？」
　鎧と表現できるほどの筋肉を身に纏った大柄な、しかし体にそぐわないバッチリメイクをきめた少年が立っていました。
「ひっ、オカマ？」
　ＯＢがびびっていると、
「あら、ご存知だったかしら？　尾鎌 蛇那伊よ。参加条件は水着又はそれに類する寒さの格好ね。良いわ、全力で逝ってあげる！」
　言うが早いか、蛇那伊は自らの服を掴んで引き千切るように脱ぎ捨てました。
　そして一糸纏わぬ姿でグラウンドに降り立ちました！
　グラウンドにいた女子たちから悲鳴が上がります。
「ま、待て、全裸はアウトー！　大体男が脱いでも嬉しくない！」
　ＯＢたちが慌てて止めに入りました。
「仕方ないわね、テイク２行くわよ」
　蛇那伊はわざわざ服を着なおします。
　そして、同じように服を掴んで脱ぎ捨てます！
　今度は無事？　ブーメランパンツ一丁だけの姿になりました。
「スコップ？　遠慮するわ」
　こともなげに蛇那伊は言います。
「その代わりにこの鍛えぬいた筋肉が雪を粉砕してくれようぞ！」

　アンナと暦は、遠目にも目立つこの騒動を唖然として眺めていました。
「変態……近寄っちゃだめね。むさくるしい男はスルーよ」
　口直しに素敵な女の子達の水着姿をこの目に焼き付けないと、と思うアンナ。
「脱げばいいというものではないわね。やっぱり、恥じらう美少年じゃないと……」
　目をそらす暦。
　この点において二人の意見は一致したようでしたが。
「あら、あそこに美少年が……」
　暦の美少年センサーが何かを見つけたようです。　


「うう……この間のデートで財布が軽くなっちゃった……」
　嘆いていたロベルト・エメリヤノフにとって、お年玉争奪戦は美味しい話でした。
（がっぽり稼げたらまた美少年をナンパだ！）
　残念ながらロベルトは、成績はいいバカでした。
　海パン姿で早速参加したものの……寒い！
（物心ついた頃から日本育ちだし……ロシア人がみんな寒さに強いと思うなよ……！！）
　くじけそうになったロベルトの茶色い瞳に、見覚えのある小柄な少年が映りました。　

「すっげー寒いし今すぐ炬燵に入りたいくらいだけど宝探しか……正直ちょっとワクワクするなー」
　たまたま近くを通りかかった茶髪のウルフカット、童顔美少年の卯木 衛は、ＯＢにとっ捕まり海パンを渡されてしまいました。
　大きな雪像や雪だるまを眺めながら衛は気合いを入れます。
「どうせ着替えちゃったし体動かしゃあったかくなんだろ！」
　そこへ、聞き覚えのある声がかけられたのです。
「卯木も来てたのか。一緒にチーム組まないかい？　報酬は山分けしようよ」
　可愛い後輩の前で無様な姿は見せられない、とスマートにやせ我慢し笑顔を向けるロベルトです。
「チームだわーい！　ロベルトさんが一緒なら心強いな！」
　衛は無邪気に喜びました。
　衛にとってロベルトは、頼れるかっこいい先輩なのです。