忘れ物市で待つものは｜リアクション

忘れ物市で待つものは

☆掘り出し物を探して

　大学生の城山水樹は、広告を見て早い時間から忘れ物市を訪れた。
「うそっ！」
　早速ヴィンテージもののジーンズと安い値札に目を留め、素早くサイズや全体を確認する。
　汚れもない。
　問題なし、とカゴに入れた。
　もしかしたら自分と同じような職種の人の忘れ物かもしれない、などと思う。
　背が高く均整のとれた身体つきをした水樹は某雑誌の読者モデルをしていたが、去年の暮れから専属モデルになった。
　一見華やかな世界だが、拘束時間が長く注文が多くてきつい割に出演料はとても高いとは言えず。
　アクセサリー類など自腹で揃えなくてはならないことも多い。
　専属モデルとして掲載されるからには服の魅力を一層引き出せるいいものを揃えたいが、アウトレットでも結構高い。
　だがここは、新品の服もアウトレットや古着屋以上に安く売られているので結構見過ごせないし、色々あって目移りする。
　コート、ブーツ、シルバーアクセサリー……それにコスメの福袋まであった。
（今年の初売りのね。ラッキー！）
　これだけ買っても福沢さん一枚でおつりがくるから最高だ。
（他に何かあるかな……）

　色々見て回っていると、ＣＤのコーナーがあった。
　洋楽のアルバムを何枚か手に取った水樹は、そのうちの一枚に見覚えがあった。
　有名なロックバンドの限定版のアルバムだった。

　ふと、男の顔が浮かんだ。
　去年の夏に手酷く裏切られた元彼……

　そのアルバムには、彼が好きな曲が入っていたのだ。
　二人で、ネコミュージックフェスティバルへ行くはずだった……あんなことがなければ。
（冗談じゃない！）
　頭を振り、過去の恋の記憶を振り払う。
　今はもう新しい恋が始まったばかり。　
　元々落ち込んでも立ち直りは早い水樹。『後悔は少なめのマイライフ』が信条だ。

　クリスマスのステッラ・デッラ・コリーナで出会った童顔の彼のことを思う。
　出会った日に結ばれた彼とは、初詣にも一緒に行くことができた。
「……気を取り直して、今度は彼に似合いそうな服でも買ってあげようかしら？」
　新しい彼の笑顔を思い浮べ、水樹の頬は熱くなっていた。
　これからは彼と共に、素敵な思い出をたくさん作っていくのだ。
　

このページにイラストを設定する