忘れ物市で待つものは｜リアクション

忘れ物市で待つものは

☆懐中時計の思い出

　ツインテールの可愛い小学５年生の少女、佐藤瀬莉は、ねこったーで忘れ物市の開催を知った。
　おしゃれな服を着て一人星ヶ丘からねこでんに乗ってmiaoに向かう。
　駅で駅員さんがポケットから懐中時計を取り出したところを眺め、今日はラッキー、と思う。
　
　小学生ながら手先が非常に器用な瀬莉の趣味は、時計いじりだ。
　好きこそものの上手なれ、いろいろいじっているうちに時計の構造を把握するようになり、将来はスイスの時計学校へ留学して時計職人になりたいと考えている。
　子供らしく漠然と夢見ているだけではない。フランス語で行われているという時計学校の授業のため、フランス語を早めに勉強し始めている。
　中でもお気に入りなのは懐中時計だ。
　しかし腕時計の普及につれ懐中時計は消えていった。
　骨董品店以外で懐中時計を見かけるのは駅員さんの鉄道時計くらいだ。
　忘れ物市に行くのも、懐中時計がお買い得なお値段でゲットできるからだ。
　安いとはいえ小学生には厳しい値段だが、瀬莉の親は大富豪な上に、可愛い娘のためにお金を出し惜しみしない。
　買った懐中時計を使って精密作業の訓練をしたいし、そうでなくても、色んなデザインの懐中時計を見るのは楽しい。
（将来あたしも芸術的な懐中時計を作れたらなあ）
　時計のコーナーでいろいろな懐中時計を見ながら、瀬莉は思う。

　アンティークの懐中時計に見惚れながら、瀬莉は一つの懐中時計を手に取った。
「だいぶ古そう……電池じゃなく機械式なの？」　
　触れた途端に。

　瀬莉の脳裏に桜の舞い散る光景が浮かんだ。
（制服を着た男の人と、女の人と子供……日の丸を持ってる）
　涙をこらえて笑顔を見せる女の人と、対照的に無邪気な女の子の表情。見ていてなんだか胸が痛くなる。
　女の人は、悲しみをこらえた笑顔だった。
（お別れするところなのかしら……戦争？）
　そういえば、国語の教科書で似たお話を見た気がする。

　この懐中時計は、戦争に行った男の人のものだったのだ。
「この時計がかえってくるのを待ってる人がいるんだ」
　瀬莉は時計を持ってレジへと向かった。
（時計を家族の元へ帰してあげたい。ネットで聞けば……わかるかも）

　家へ戻った瀬莉は、先刻浮かんだ光景を元に画像検索をした。
「大日本帝国海軍の制服なんだ……」
　それからねこったーに書き込みをする。
『人を探しています。大日本帝国海軍として桜の季節に出征した当時、奥さんと小学生くらいの女の子がいて、懐中時計を持っていた――』

　思った以上に反響があり、その後瀬莉は持ち主を見つけ出し時計を渡すことができたという。

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