ふわりと幸運は舞い降りる｜リアクション

ふわりと幸運は舞い降りる

　黒い布地に出来た丸い穴のように空には月が出ていた。星ヶ丘の住宅街の明かりは疎らでひっそりとしていた。
　そこに靴音が響く。品の良い白のファーコートに身を包んだ桜月が散歩に勤しむ。月光を浴びた長い髪は神々しい程に白い。憂いを秘めた赤い瞳をそれとなく路地に向けた。
　――今日みたいに寒い日には猫もいないんだな。
　沈んだ表情で月は白い息を吐いた。立て続けに試して、私は寂しいのか？　と心に問う。答えずに足を速めた。
　住宅街の方々に視線を向けた。
「誰もいない」
　足は急速に力を失った。ぼんやりとした顔で路上に佇む。
　――ろっこんを使えば、でもそれは違うと思う。
　間もなくして近くの公園に視線が動く。引き寄せられるように中に入っていった。
「やはり、ここも」
　言葉を切った。ブランコに女の子が乗っていた。
　月が目を凝らすと瞬時に消えてしまった。幻覚ではない証拠に無人のブランコが揺れている。
「こんばんはなの」
　背後からの声に月は笑みを浮かべて振り返る。
「こんばんは、メリーさん」
「また会ったの」
　女の子はフリルをあしらった黒いドレスを着ていた。頭には赤いリボンを付けている。
「メリーさんはそんな恰好もするんだね」
「気分によって服装は変わるの。女の嗜みなの」
　大人びた台詞のあと、子供っぽい動作でくるりと回る。月の表情が自然と優しくなった。
「今日はどうしたのかな。夜のお散歩？」
「そうなの。夜はなんでも貸し切りになるの」
　公園には二人だけであった。月は、なるほど、と相槌を打った。
　前触れもなく女の子は駆け出す。近くに落ちていた柔らかそうなボールを拾って高々と掲げた。
「このボールで、さっきまで遊んでいたの。一人キャッチボールなの」
「一人でキャッチボール？」
　耳慣れない言葉に月が首を傾げる。女の子は行動で語った。適当に投げたボールを瞬間移動で受け止める。メリーさんらしい高度な遊びであった。
「本当に一人でキャッチボールだね」
「いろんなシリーズがあるの。一人卓球、一人テニス、一人サッカーもあるの」
「メリーさんは一人遊びの天才だね。でも、寂しくない？」
　月は儚い笑みを女の子に向ける。
「寂しかったりするの」
　聞き返された月は間を空けて、もう一つの月を眺めた。
「私は生まれ付き、太陽の光に弱くて夜に出歩くことが多いんだ。だからかな、一人は少し寂しく感じるよ」
「あれは月ではないの」
　女の子は月と同じように空を見上げて言った。
「メリーさんには何に見えるのかな」
「あれは夜の太陽なの。淡い光で皆を優しく包んでくれるの」
「そう、かもしれないね」
「絶対にそうなの」
　強い言葉を受けて月は、そうだね、と笑って言い直した。
　その様子に満足したのか。女の子は公園の外に向かって歩き出す。遠くなる小さな背中に月は声を掛けた。
「メリーさんは人の心を読めるのか？」
「そんなに万能ではないの。今日の出会いは、ただの偶然なの」
　背中を向けたまま、女の子は忽然と消えた。
　月は今一度、空を見上げた。
「目に優しい太陽だ」
　淡い光を全身に浴びて月はゆっくりと歩き出す。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：黒羽カラス
ファンレターはマスターページから！

今回は少し改良（？）された、丸投げシナリオの二回目となります。
ＮＰＣの出番が多い回でもありました。いかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけたのであれば大変に嬉しく思います。

三回目の丸投げシナリオは、現段階では未定となっています。
ですが、何かを切っ掛けにして挑戦するかもしれません。
その時には温かい眼差しをお願いします。

最後になりましたが、参加された皆様、ありがとうございました。

↑ページトップに戻る