ある日の出来事。-1月-｜リアクション

ある日の出来事。-1月-

　御薗井Ｅセレッソは、前日に積もった雪に感動していた。
　まさか寝子島にもこんなにたくさん雪が降るなんて思わなったし、その景色がこんなに幻想的だとも思わなかった。
　素敵、と素直に感じ、放課後友達と遊ぶ約束を取り付ける。
（でもやっぱり……休み時間も雪遊びでユーイギに過ごすべきナノ！）
　そう思ったセレッソは、休み時間になるたび、ダッシュで中庭に向かった。
　これだけ真っ白なら、たくさん作れそうだ。
　何を作るかといえば、それは――。
　まず、雪の上に仰向けに寝転がる。
　それから、手と足を思い切り動かす。
　すると、雪の上にまるで天使が現れたような痕跡が残るのだ。これはスノーエンジェルといい、セレッソのパーパが教えてくれたことだった。
　スノーエンジェルをいくつか作っていると、「あ、先客！」という男子生徒の声が聞こえた。見ると、赤毛の男子がセレッソのことを指差している。
「指差しはいけないのヨ？　失礼に当たるワ！」
「ごめんね、菱屋くんっていつもこうだから」
　謝ったのは、背の高い女生徒だった。もう一人、さらに背の高い女生徒も申し訳なさそうに「ごめんね」と言っている。セレッソは別に気にしていなかったので、ブンブンと頭を横に振って、笑顔を浮かべる。
「気にしてないワ！　ワタシ、御薗井Ｅセレッソ！　セレッソって呼んでネ！」
　自己紹介を済ませた後、話題は必然的にセレッソがここで何をしていたかということになった。
「スノーエンジェルを作っていたのヨ！　素敵でショ？」
「おー、確かに天使みてー」
「すごいな。こんなことができるのか」
「せーじがやったら大天使ができるね！」
「私でも作れるかも、大天使」
「ワタシだけだと小さいのしか作れないノ。だから皆で作りまショ？　大きいのや小さいの、いっぱいある方が楽しいノ！」
「もちろん乗ったー！」
　御幸が元気よく答え、我先にと雪の上にダイブする。
「うはっ、つめたーい！　けど楽しい！」
　次いで碧南、清十郎、最後に嫌そうにしつつも日向が飛び込み、様々な形のスノーエンジェルが完成する。
「……センパイにも見てほしいなあ」
　ぼそっ、と呟いた言葉は、誰にも聞こえなかったみたいだ。みんな、いつの間にかスノーエンジェル作りに夢中になっている。日向以外は。
「なんか言ったか」
「ウウン、何も！　あっ！　次の授業遅れちゃうノ！　ばいばい、またネ！」
　追及をかわすように、セレッソは手を振り校舎へと戻っていく。
　先輩が見てくれるといいな、と心から願いながら。