ある日の出来事。-1月-｜リアクション

ある日の出来事。-1月-

　今日はずいぶん雪が積もってるわねぇ、とブリジット・アーチャーは廊下の窓から中庭を見つつ、そんな感想を抱いた。
　珍しいものでもないが、特別見慣れたものでもないためなんとなく雪を見ながら歩いていると、中庭に御幸がいるのを発見した。彼女は背が高いうえ、日英ハーフで髪の色がオレンジに近い茶という風貌のため、よく目立つ。
　ブリジットは御幸とは違うクラスだったが、3組にいる友人を介していい友人関係を築いているところだ。
（それはともかく、もうすぐ授業が始まる時間なのに、あの子何してんのかしら？）
　よく見てみれば、他にも二人男子がいる。確か、御幸とよく行動をともにしている二人だ。名前までは知らないが、顔くらいは知っている。
　これは何かあるぞ、とブリジットの灰色の脳細胞が告げてくる。気付いた時には彼女は中庭へと続く窓を開け、「Hi！　MIYUKI！」と声をかけていた。
『そんなところで何してんのよ』
『あっちょっ、ブリジット、しーっ！　バレちゃうバレちゃう』
　英語で問いかけると、英語で返ってくる。日英ハーフの御幸は、英語はペラペラだ。発音もよく、聞き取りやすい。
　何言ってんのよ中庭で何かしようなんてバレないわけがないでしょうと思いながら、ブリジットは言葉を続ける。
『確か次の3組の授業は教室移動ないでしょ？　ていうかバレるって何かしら、何をしでかそうと？』
『しでかすだなんて聞こえが悪いよ！　ブリジットこそ、名探偵を自称するなら当ててみて、その灰色の脳細胞で』
『あら、私に宣戦布告とはやるじゃないの。そうね、大方雪遊びってところかしら』
　ずばり可能性の高いことを言ってのけると、御幸は大げさに仰け反ってみせた。
『バレたー！』
『バレバレよ』
『雪合戦しようとしてるんだけど、ブリジットもどう？』
『あー、いや、私は遠慮しておくわ。あなたと同じで見た目が目立つから、いないとすぐ先生に気付かれるから。……っていうかあなた大丈夫なの』
　よく見ると、御幸の周りにいる二人も赤毛のヤンキーと長身の男という目立つ組み合わせだ。どうしてこの三人で授業を抜け出そうと思ったのか、こればかりはブリジットの灰色の脳細胞を駆使してもわからなかった。
　せめて昼休みとか放課後にやればいいのに、と思ったが、御幸の性格上、一度決めたら即行動したくなってしまうのだろう。まあ、これだけ雪が降ればわからなくもない。
『ブリジット、先生には内緒ね！』
『バレると思うけど、私から言ったりなんて野暮はしないわよ、安心なさい。じゃあね、良い時間を』
　そう告げて、冷たい風の吹き込んでくる窓を閉める。当人たちが納得してやっていることなのだ、外野がとやかく言うことではない。
　まあ、顛末くらいは後で御幸にニャインで聞いてやってもいいだろう。
　きっと、「楽しかった！」と笑って言うだろうけれど。