九夜山ミステリー・凍り付いた山荘の悲劇～犯人はフジコ～｜リアクション

九夜山ミステリー・凍り付いた山荘の悲劇～犯人はフジコ～

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「大したものはない、か」
　如月庚は部屋を物色した後、首を振った。
　部屋の中の有用なものといえば、せいぜい救急キットくらいだ。
「こうなりゃろっこんだけが頼りか」
　幸い、破壊力には自信がある。
　あとは冷静冷徹に振る舞うだけだ。
「夜明けまでおよそ十時間……さて、どうやって凌ぐか」
　庚は一階に戻ろうとして、その際に見えた台本に手を伸ばした。
「『やっぱり冷たくなって』？　こりゃ外に出るような状況になるってことか？」
　というかなんだ、やっぱりって。
　釈然としないものを感じつつ部屋を出ようとした時、壁越しに悲鳴が聞こえてきた。
「――って、フジコ隣にいるのかよ！」
　しかも誰かが襲われている。
　庚は額の傷跡をなぞると、壁に向かって拳を構えた。蒼穹の如き輝きを宿した右拳は壁に叩きつけられ、周囲の壁一帯を破壊する。
　それはちょうど、フジコの『安眠天国行き切符』が放たれたその時だった。
『！？』
　壁の建材に巻き込まれ、じぇのさいだー☆フジコが吹っ飛ぶ。
「……お取込み中だったか？」
　中に入った庚は、ベッドの上で抱き合う美少年たち――悠月とアカリを見て呟いた。
「安心しろ。プライバシーに踏み込むほど野暮じゃない」
「なんでそーなるんだよ！？」
　パっと離れる二人。まったく同じ言動、仕草である。
『痛イワァ……』
　瓦礫がうごめき、その下から立ち上がフジコ。
「壁越しじゃ効かねえか」
　再び額に触れる庚。同時にフジコが襲いかかる。
「来るな寄るな触るな！」
　悠月が叫びながら、合気道の要領でフジコのホールドを必死に受け流してゆく。
「今だ！」
　アカリがフジコの足に飛びついて動きを止めた。
「――フッ」
　庚のろっこんが再び炸裂する。フジコの身体は部屋の窓を破壊し、外へと落ちていった。
「これで時間は稼げるだろ」
　割れた窓から風が流れ込んでくる。庚が悠月とアカリに向き直る。
「部屋、変えた方がいいぜ」」
「だな。ついでに他のヤツと合流しよう」
　アカリが今後の方針を考える。庚が言った。
「俺は一階に戻る。今頃、屋敷野がトラップでも作ってるはずだ。屋根裏に行けばサキリや刀が武器を探してるだろう」
「なら、俺達は屋根裏に行く」
　悠月の即答に、庚はうなずいて部屋を出ていった。
「……なあ、なんで俺『達』なんだ？」
　アカリが顔をしかめて尋ねる。
「なんだよ。下行きたかったのか」
「いや、俺も上派だ。部屋に武器なさすぎ」
「じゃ、いいだろ」
「よくねえよ。なんで獅子目が仕切るんだよ」
「決断が遅いと馬鹿な目見るだろ」
「カギ閉め忘れた馬鹿に言われたくねえ！」
「なんだと！」
　ヒュオオ！
　寒風が吹きすさんで、二人の口論は急に終わった。
「……行くか」
「ああ……」
　二人は一路、屋根裏を目指した。