悠久の時の彼方へ～信州に真田あり｜リアクション

悠久の時の彼方へ～信州に真田あり

「……ふう。倒しても倒してもきりがないわね」
　上田城から再度出撃し、暴れまわっていた尾鎌蛇那伊も、流石に膠着状態を意識し始めていた。
　戦場に近づいてくる騎馬の足音に気づいたのは、その矢先だった。
「―――援軍、来たみたいね」

　信之軍の到達とともに、それまで一進一退であった戦況は決定的になった。側面を突かれる形になった徳川勢は、たまらず陣形を崩されていった。
「追撃せよ！」
　猛将・真田信繁の号令とともに、勢いに乗った真田勢が攻勢に転じる。城から放たれた火矢から広がった火は、すでに城下町に広がり、徳川勢の退路を絶とうとしていた。
「信繁さん、お手伝いしますよ」
　クルジッカ・ヘルマゴルは、視界を確保できる櫓に登っていった。信繁に攻撃しようとする兵の足をすくって転ばせたり、敵兵の鉄砲や弓の向きを動かしたりして邪魔をする。
「それから、あの仕掛けも」
　クルジッカは、高く上がった一つの凧の糸をわざと切った。そして、それを燃え盛る家屋に放り込む。

「あれが罠か」
　信之の隊についてきていた卯木衛は、敵の攻撃はせずサポートに回っている。衛は、凧の落ちた先を指して、味方に呼びかけた。
「あの付近には近づくな！敵が逃げ込むままにしとけ」
　まもなく、凧に仕込んであった火薬が引火して、敵兵が派手に吹き飛ばされた。

　旧暦8月の日が傾く頃、戦いの勝敗は決した。
　城下町に放たれた火はまだ燻っている。煙が立ち上る戦場に、徳川勢の屍が点々と転がっていた。真田家は、徳川の大軍を退けたのである。

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