【星幽塔】第二階層　ラッシュ・ザ・ストリーム｜リアクション

【星幽塔】第二階層　ラッシュ・ザ・ストリーム

　裂帛の一撃を放つのは、弓を構えた悠月。
「魚は俺たちに任せろ！」
　言うなりシグレは足場を跳躍。サーベルを抜き放つ。
　その背後から彰尋、ストレイトに治癒の技を放つ。
　体力は温存するつもりだが、出し惜しみをする気もない。
　あわせて油断なく、室内を視認。薄暗い先にある、一本の柱。
　かなり距離はある。

　此処に至るまで、かなりのトラップがあった。
　あの二層の主とかいう少年のことを、あながち与太とも思えないくらい、常識はずれの仕掛けだらけ。そして、ここにもギミック。
　――あの柱にたどり着けば、魚型の水人形どもに、何かしらの影響があるはず。

　シグレは吶喊。サーベルに星の力をみなぎらせ、黒の魚の正面に立つ。
　挑発するような剣捌きに、魚は標的を変える。
　地獄の門のような口を開き、シグレに迫る。
　悠揚迫らず、シグレは足場から足場に跳躍。
　追いつかれるとみるや、くるりと方向転換する。
　気合を込めて、白銀の小剣を一閃。
　魚に、ではない、その切っ先は水面。
　ゴォウッ！
　すさまじい衝撃とともに、水面が大きく抉れる。
（これほどのものとはな……）
　事前に情報を得て、十分集中を練っていたとはいえ、自らの発した星の力に驚くシグレ。
　急に推進力を失った黒の魚は、もんどりうって足場に放り出される。
　その隙に悠月、至近距離からの矢の乱打。
　黒の魚の体が、澄んだものから、どす黒い漆黒へと変じる。
　そのままシグレは、流麗な放物線を描いて、水中に没する。
　怒りにみちた黒の魚、シグレの追跡を開始。
　同時にシグレを狙おうとした赤の魚、不意に異変を察知する。
　この部屋の守護神たる、ガードのプログラムされた本能か。
　水槽の奥、影から影に泳ぎ渡る――

　――鴻上！

　即席ながら、絶妙のコンビネーションを見せるミューズの三人。
　シグレは囮。
　真の狙いは、彰尋が紋章に触れること。
　十分にヘイトを蓄積した黒の魚は、もはやシグレしか目に入ることはない。
　だが赤の魚、疲労の極みに合ったストレイトを逃れ、彰尋に向かう。
　
　限界を振り絞って、本来の弓のポテンシャルをはるかに超えた射出を行う悠月。
（任せろといったからには、ぜったいに向かわせない！）
　圧倒的な技量、尽きない集中、それを可能にする炎のような意思。
　長髪が炎のように燃えたち、海の色したピアスが鋭く光る。

　黒の魚の、みずから餌と化したシグレ、必死に水中を進む。
　状況は判然としない。だが仲間への信頼がある。
　着衣水泳は海軍の爺様に仕込まれた。
　恐ろしくキツイ。こんなものに、あの爺様は何で耐えられたのだろう。
　追いすがる相手に、シグレはろっこん発動。さらに速度を上げる。

　背後で炎がひらめくのを感じながら、彰尋はただ前へ。
　恐ろしく体力を消費している。
　シグレと悠月に事前に施した回復の秘術は、彼らの継戦を可能にする。
　目元がかすむ。
　思うように腕が上がらない。
　背後では皆が応戦し、なんとか魚の足止めを繰り広げている。
　だがこのままでは、追い付かれるのは時間の問題……。

　その瞬間だった。
　排水溝――エヴァたちが出てきたチューブから、再び三つの影が吐き出された。
　礼二郎。時子。桜。
　
　礼二郎は瞬時に状況を見て取る。
　大斧を構えて跳躍。赤の魚に迫る。
　ここでも身を挺して、敵を防ぐつもりだ。
　
　温泉につかり、体力も十分に回復している。
　それに、挫けない精神も兼ね備えている。
　巨大な相手に一歩も動じない。
　不屈の精神が、消耗のひどいストレイトをカバーし、ともに魚の抑えに入った。

　ここへきてゴーレムの二体、プログラムと怒りで引き裂かれる。
　思うように進めぬ。振り払って突き進めば、相手は消耗の激しい人間一体。
　黒の魚も、徐々にシグレの呪縛から解き放たれつつあった。
　
　このままいけば、礼二郎とストレイトを振り払った赤の魚と、黒の魚が、彰尋を同時に襲うのは時間の問題……。
　――何とか！
　――何とか、少しでも時間を！