【星幽塔】第二階層　ラッシュ・ザ・ストリーム｜リアクション

【星幽塔】第二階層　ラッシュ・ザ・ストリーム

　水道橋、地下。
　時間は少し前に戻る。

（大当たりかな……）

　手鏡で、部屋の内部を確認する夏朝。
　薄暗く判然とはしないが、僅かな足場のほか、満々と水をたたえた部屋は、巨大な水槽のようだ。
　その水槽を、二体の巨大な魚影がよぎる。
　一体は赤く、一体は黒い。
　苦労して角度を変えると、僅かに部屋の奥の巨大な柱を捉えることができる。
　はっきりとはわからないが、紋章が刻まれており、それに触ればよいのだろう。

　状況を確認し、エヴァとザ・ストレイト――轟に伝える。
　温泉からいち早く脱出した三人。
　胎内をめぐるような、長い長い排水溝を下ると、不意に眼前に光が満ちた。
　慌てて制動をかけ、落ちた先を眺めると、いきなり魚が待ち構えていた。
　油断せず、慎重に歩を進めていなければ、突如プールに放り出され、魚の餌食になっていたところだ。
　
　それにしても、あまりに急だ。いきなりボス戦に突入してしまう。
　思えばこのフロア、初めての本格的な実戦。
　気合が抜けているわけではないが、集中しきれているとも言えない。地下の迷宮を抜けてくれば、また違ったのかもしれないが。
　――援軍が来るまで、じっとしているべきか？
　それは時間の浪費。先行する空中ルートの一同が、先に水龍に達してしまえば、不利な状態での戦いを余儀なくされる。
　此方に向かっている迷宮班も、すぐにここにたどり着くだろう。
　それまでに戦局を有利に進めるべきだ。

「この地形で、相手が魚形だと分が悪いわね……」
　ええい、と忌々し気に呟くエヴァ。
「突進を避けるのが難しいなら、相手に避けてもらうだけよ」
　頷く一同。心を決めた。策はある。

　勢い込んで、一同は突入。
　その瞬間、赤と黒、二体の魚が突撃を開始。
　ずいと二人の前にでたエヴァ、鉄扇を開いて不敵な笑みを見せる。
　まず一体目、黒のゴーレム。
　華奢なエヴァに、濁った半透明の体を晒し、口腔を開けてとびかかる。
　獰猛な水晶の牙を目の当たりにして、エヴァは少しも引くことがない。
　ぱちんと鉄扇がなった。
　ろっこん発動。ここに至るまで幾度となく彼らを助けたベクトル偏向の技。
　運動法則を無視して、九十度方向転換をした魚、壁に激突。
　続く赤のゴーレム、先行する相手を見て怯む様子を見せるが、止まらない。
　同じく『タービュランス』。今度は逆側。
　咄嗟に夏朝もろっこん発動。
　ねこシールを魚に飛ばす。
「重く！」
　絶叫とともに、Ｇが魚の巨体にズウンとのしかかる。
　瞬間的に拡大する運動エネルギーが、加速度に変換し、振り回されるように魚が動く。
　その先には、戦意高揚たるザ・ストレイト。
　
　彼が今回自らに課したのは、皆の『盾』となること。
　熱い激流が身内から湧きだすが、それは相手を押しとどめるためのもの。
　迫り来る魚に正対、すれ違いざまに、
「オラァ！」
　渾身のカウンター。
　室内がびりびりと震える。
　赤の魚がもんどりうって、吹き飛ばされた体を壁に激突させる。
　その体が、より濃い赤に変じる。
　三人は相手がショックで動かぬ隙に、別の足場に移動。
　思ったより、相手は堅牢だ。
　再びとびかかる赤の魚を、ストレイトががっしりと抑え込む。
　フォークリフトほどもある相手を、ストレイトは満身の力で抑える。
　黒の魚がそちらに行かぬよう、エヴァと夏朝は移動しつつ攻撃を叩きこむ。
　金の戦輪が、火影に眩く揺れる。
　――やはり、三人での攻撃は、無謀であったか……。
　二人の攻撃を無視して、ストレイトに背後から突撃を仕掛けようとする黒の魚……。

　その背に、光の矢が突き刺さる！

　――待たせたな！