フリーマーケットに行こう｜リアクション

フリーマーケットに行こう

すたこらさっさと退散する刀にぷぅと頬を膨らませる璃人だったが、シダの方に視線を遣るとすぐさまぱっと花開くような笑顔を見せる。

「シダさんも如何ですか？これなんかシダさんにお似合いだと思うのですよー♪」
「シダにも？」

璃人がシダに見せたのはいわゆるゴスロリ服。
黒を基調としたワンピースの裾や袖は白いフリルで飾られ、スカートは秘密を孕んだかのように膨らんでいる。
目を惹くのは襟元に飾られたシダの瞳と同じ真紅の薔薇だろう。
普段の活動的なシダとは縁遠い衣装だ。

「うーん……コン（やだ）！」
「ええ～、たまにはイメチェンしましょうよ～」

きっぱり断ったシダに対して璃人は残念そうに眉尻を下げるも、シダの性格や生活スタイルを考えれば無理強いも出来なかった。
そんな璃人にシダは笑って可愛らしいぬいぐるみを差し出す。

「シンロイ、お詫びにこれあげる」
「わぁ、可愛い鹿さんです！」
「鹿違う　それサオラ。ベトナムユニコーン、ファンタスティック。デトゥーンかわいい」
「ベトナムユニコーンですか……可愛いですね！えへへ、ありがとうございます、シダさん♪」

サオラのぬいぐるみを抱いて自分のスペースに戻った璃人はその後しばらく忙しく売り子にいそしむこととなる。

「りぃちゃーん、きったよー！」
「空音さん！いらっしゃいませですよー♪」
「うっへっへっへ、りぃちゃんかわいー！衣装も可愛いけど、りぃちゃんヤバいかわいー、萌えー！」

璃人のスペースにやってきたのは桃原空音。
アニメや可愛いものを愛する元気で明るいヲタク少女の空音は、先日璃人にフリーマーケットでコスプレ衣装を売ることを聞いて臨時収入を手に喜び勇んで来た次第だった。
蛇足だが臨時収入とは自費出版で出した漫画で得たものだ。
資金は潤沢、空音は上機嫌であれもこれもとコスプレ衣装を買い求める。

「これは誰に着せようかなぁ、うっへっへっへ……」
「りぃの衣装がお役に立ちそうで嬉しいですよ～、うふふふふ……」

自分で着る以上に誰かに着せて楽しむ。
コスプレをそういった風に楽しむ人間の二人は意気投合して、黒というかピンクというかその二つが混じり合ったような怪しい空気を漂わせている。

「ひゃっ！？」
「はわっ、凄い風ですー！」

しかし唐突に吹きこんだ強風のせいで二人とも髪やスカートを抑えるのに気を取られ、澱んだ怪しい空気も流される。
五月の薫風は偉大だった。

（そういえば……）

璃人はふと今日一緒に来ることが叶わなかった想い人のことを思い出す。
本当ならその人に合うアクセサリーなど見つけたかったのだが、予想以上に盛況でスペースを離れるのは難しそうだった。

（そうだ、折角戴いたこの可愛いサオラさんをお土産にしましょうか）

想い人の顔を心に思い浮かべ、璃人はきゅっとサオラのぬいぐるみを抱きしめた。
璃人が帰り際に買い求めることが出来たアンティークレースのリボンを巻いたサオラは、後日想い人の元へと届けられるに違いない。