フリーマーケットに行こう｜リアクション

フリーマーケットに行こう

【フリーマーケットの朝】

昔から寝子島に住んでいても星ヶ丘に足を踏み入れたことがない。
そういう人間が多いのは星ヶ丘が高級リゾート地区であり、一般人からしてみるとどうしても敷居が高く敬遠されているからだったりする。
星ヶ丘駅前広場でのフリーマーケットはそんな事情を憂いた星ヶ丘在住のある資産家が主催したらしい。
そんな話を寝子電で小耳に挟んだ少年が星ヶ丘駅に降り立ったのは午前十時だった。

「確かにこういう機会でもないと星ヶ丘には来ないよねぇ、遠いし。はーるばーるーきーたーよー星ヶ丘～」

若干音の外れた歌を歌いながら改札を抜けたのは真辺伸幸だった。
伸幸にとって自分の行動範囲から遠く離れた場所である星ヶ丘は今まで足を踏み入れたことのない場所であり、目に入る風景全てが興味深くきょろきょろとあたりを見渡す。
すると見慣れない光景に見慣れた人影を一つ見つける。

「ぬ？あまくんじゃないかー」
「ま、真辺！？……君、自力歩行できたんだね」
「俺だって自力歩行ぐらいでき……うん出来るねぇ。一瞬悩んだけれど毎朝学校、徒歩だしねぇ」

伸幸と同じ猫鳴館に住む逆巻天野もフリーマーケットの為に星ヶ丘に訪れた人間の一人だった。
此処まで来たら猫鳴館の変わった同居人達から離れて落ちつけるかもしれないと密に考えていた天野だったが、そうは問屋がおろさなかったかと小さくため息をつく。
しかし伸幸はそんな逆巻の様子はどこ吹く風、いつもの緩い調子で会話を続ける。

「ところであまくんもフリーマーケットに？」
「うん、ちょっと古書や骨董の類が気になってね。真辺は？」
「俺の目的は星ヶ丘に来ることだったからもう半分以上叶っちゃってるからねぇ、とりあえず適当にぶらぶらしてみるよー」
「そう、真辺らしいね」
「ぬん！じゃあお互い良いものが見つかると良いねぇ」

そうして二人は賑わう会場で別れた。
フリーマーケットはまだ始まったばかり。

このページにイラストを設定する