フリーマーケットに行こう｜リアクション

フリーマーケットに行こう

【怪しいぬいぐるみ売り】

会場の中でも端のスペースにその怪しい男はいた。
たくさんのぬいぐるみに囲まれた銀髪を帽子で隠し、サングラスをかけた長身の男。

「……ちくしょう、この悪目立ちする容姿が恨めしい……！」

それは己の容姿を嘆く滝原レオンだった。
今まで作りためたぬいぐるみ達を里子に出す為に参加したはいいが、レオンは寝子高の生徒に見つかりたくなかった。
その為に目立つ髪や瞳を隠す変装で臨んだはいいが、それはあまりにも逆効果だった。
前を通りすぎる客たちの視線がちくちく刺さって居たたまれない。
元々客引きできるような社交的な性格ではない為、この環境はレオンにとって苦行でしかなかった。
しかし……。

「こういう機会でもないと……こいつらもかわいそうだしな」

スペースに並べた自信作、というより可愛いわが子と言った方が適切であろうぬいぐるみ達を眺めて溜息を一つついたところで、不意に声をかけられた。

「可愛らしいですね……」
「うぇ、あ、いいいらっしゃーせ！」
「すみません、そちらの子を手に取らせていただいてもよろしいですか……？」

レオンが顔を上げれば声の主と視線が合う。
そこには丁寧な物腰と和装が目を惹く少女、御巫時子が肩に可愛らしい小鳥を乗せて佇んでいた。

「へ！？あ、ど、どの子！？」

思いがけない来客に動揺を隠せないレオンだったが、時子の方はそんなレオンの様子にも変わらない静かな笑みをたたえたまま着物の袂を押さえながら一体のぬいぐるみを指さす。

「そちらの、撫子の着物を着ている子です……」

それは鶯色に淡いピンクの撫子が描かれた着物と海老茶の袴を着た白い兎のぬいぐるみだった。
レースやフリル満載のドレスや水兵のようなセーラー服といった洋の装いをしたぬいぐるみのなかで数少ない和風のぬいぐるみ。
時子は数が少ないからそのぬいぐるみに目をつけたわけではない。
元々和風のものが好きで、そういった物を探していたのだ。
時子はレオンが震える手で差し出してきたうさぎを受け取ると、壊れものを扱うように慎重な手つきで肌触りを確かめたり衣装を確かめる。
そうしていると肩に乗っている小鳥が時子に問う。

『うさぎ？うさぎ？』
「ええ、でもこれは『ぬいぐるみ』といって、うさぎのつくりものですね……」

小鳥と会話出来るのは時子のろっこんの力。
普通の人なら鳥のさえずりと時子の独り言にしか聞こえないが、ちゃんとコミュニケーションは成立している。
普通なら訝しげな目で見られるかもしれないが、幸いにしてその間レオンはぐっと拳に力を入れ地面を見て固まっていた。
静かにパニックを起こしていて、時子と小鳥のやりとりに気付いていなかったのだ。

「決めました。この子をお譲り戴いてもよろしいですか……？」
「へっ！？」
「ダメ、でしょうか……？」
「いやいやいや！全然！そのっ……大事に、してやって下さい」

レオンは真っ赤な顔で俯きながら時子が巾着から取り出した代金を受け取り、小さな声で我が子を送りだす。

「ええ、大事にします……」

レオンの言葉に時子は笑顔で頷き、腕に抱いたうさぎの頭を優しく撫でた。
この可愛らしいぬいぐるみを作ったのであろう彼を時子は学校で見かけた記憶がある。
しかしそのことについて言及するのは止めた。
彼がそれを望んでいるとは感じなかったからだ。
でも、もし学校で会う機会があったら……。

「その時はまた新しい子を見せていただくのもいいかもしれませんね……」

時子の穏やかな独り言は小鳥だけが知っていた。

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