フリーマーケットに行こう｜リアクション

フリーマーケットに行こう

【異国の風と異世界の風と薫風と】

フリーマーケット会場の一角に異国情緒溢れる一角があった。

「ベトナム雑貨にアオザイどう？デトゥーンかわいい、見てって」

ベトナムの民族衣装アオザイで売り子をしているのはシダ美穂戸。
スペースには日本ではあまりお目にかかれないベトナムの雑貨やアオザイが所狭しと並べらている。
ベトナム語混じりのカタコトの日本語でもシダは物怖じせず、元気よく呼びこみをしていた。
ベトナム格闘技ボピナムの優雅で鋭い華麗なアクションも交えて通行人の目をは釘付けだ。
シダは自分のルーツであり、また大好きなベトナムのことをもっと皆に知ってほしかった。
ベトナムの日本もとい寝子島での認知度はそこまで高くない。
しかし食べ物や文化など、ベトナムの良いところはたくさんある。
ちなみにアオザイは世界で一番可愛い民族衣装だとシダは信じている。

「アオザイ、クワン（パンツ）ついてるから、見えない、安心！」

得意の天空蹴りを披露して機能性もアピールすれば、通行人からもわっと歓声があがる。
そこへ聞き覚えのある声と異国の匂いに惹かれた刀がふらりと訪れた。

「美穂戸のとこはベトナム雑貨か」
「シンチャオ、刀君。男性用アオザイもある、どう？」
「え、アオザイって女性だけのものじゃないのか」

確かにアオザイは女性用衣装というイメージが強いが、ちゃんと男性用も存在する。
目を丸くする刀にシダは笑いながら刀に似合いそうなアオザイを引っ張り出してくる。

「ホンサオダウ、ちゃんと男性用もある。コレ、刀君に似合いそう」

刀は顎に指を当ててシダの手にした二着のアオザイを交互に眺める。
黒地に白い睡蓮模様のものと、白地に黒い龍の模様のもの。
どちらも捨てがたいが、財布の事情により選べるのは一着だけだ。
しばし熟考して刀は一着のアオザイを手に取る。

「決めたよ、コレにする」
「買い物カムオン　ありがとチュックマイマン♪」
「こちらこそ良いものありがとう。さて、あとはさっと眺めて帰……」
「ちょっと待ったー！なのですよー！！！」

笑顔のシダからアオザイを受け取り、軽くなったサイフに苦笑しつつも良い買い物が出来たと礼を言って去ろうとした刀を呼びとめる声。
刀は勿論のこと、シダも不思議そうな顔で声がした方を振り返る。
そこにはロリータファッションに身を包んだ小柄な少女……否、少年がいた。

「葛城」
「刀さん、刀さん、りぃのところも是非是非覗いていってくださいなのです！」

可愛いものを愛する少年、葛城璃人は自作含めた中古コスプレ衣装をシダの隣スペースで販売していた。
宣伝用に身にまとった白い砂糖菓子のようなフリル満載の衣装もお手製である。
璃人はツインテールを揺らしてビスクドールが着ているようなドレスや、チャイナドレスを手にきらきらと期待の眼差しで刀を見つめた。

「あー、すまないけどもう手持ちが……」

財布を覗きながら頭を掻く刀に璃人は無い胸を張る。

「一着七百円、二着なら合わせて千円です！うふふ、刀さんは絶対女装お似合いだと思うのです……」

璃人の笑顔にどこか影が宿り、刀はなんとなく嫌な予感を覚えて数歩後ずさる。
ここにこれ以上いると男として大切な何かを失ってしまう、刀の本能が警鐘を鳴らしたのだ。

「ふ、普段着として使えそうなのがあればと思ったが、なさそうだし……じゃあ、そういうことで！」