フリーマーケットに行こう｜リアクション

フリーマーケットに行こう

【イメージアップ大作戦】

「まぁ、可愛らしい」
「本当に。それにちゃんと人形もついてますわ」

星ヶ丘に住んでいるのであろう、整った身なりに丁寧な言葉遣いの少女二人組があるスペースの前で足を止め目を輝かせた。
彼女たちの目と心を奪ったのは和風のドールハウスだった。
丁寧なつくりのドールハウスの中には小さな家具も揃えられており、小人のような可愛らしい人形がちょこんと卓袱台前に正座している。

「さーさーどうぞご自由にお手にとってご覧くださいー。このドールハウスはねずの杜をイメージして作ったものなんですよー」
「ねず？」

このスペースの主であり、ドールハウスを作った張本人である初島優が聞き慣れない単語に首を傾げる少女達に小冊子片手に説明する。

「ねずっていうのは寝子島につたわる昔話に出てくる小人さんでね、いまならその話が載ったこの小冊子もドールハウスにつけて売ってまーす。あ、人形や家具は個別販売もしてますよー」

笑顔でセールストークをする優には今回のフリーマーケットで自分の所属する猫鳴館の星ヶ丘でのイメージをアップさせたいという目論見があった。
何せ猫鳴館は一部の星ヶ丘在住の生徒に疎まれているし、最近では風紀委員にも目をつけられていて今まで以上に存続の危機を考えさせられているのが現状なのだ。
猫鳴館の自治会員として何かしら手を打ちたかった優にとって、アウェイでもある星ヶ丘でのフリマは願ってもない好機だった。

「この島にこんなお伽噺があったのね、ファンタジックで素敵じゃない」
「ええ。それにしても本当に凝った作品ね。貴方がお作りになったの？」
「猫鳴館技術部が総力を挙げて作った一品です！」

優が胸を張って答えれば少女達は猫鳴館という単語に一瞬驚いて目を見開いて顔を見合わせていたが、優の人の良さそうな笑顔と手元のドールハウスを交互に見つめている内に笑顔が戻ってくる。

「猫鳴館には多彩な方が多いのね。あんなところに住んでらっしゃるから、てっきり恐ろしい方々ばかりかと」
「芸術家肌の方は変わった方が多いですし、創作活動をするにはああいった場所が良いのかもしれませんわね。あ、このドールハウスいただいてもよろしいかしら？」
「私も。あと他の家具も見せて戴いていいかしら？」
「はいはーい、ありがとうございまーす♪」
「よぉ、繁盛してるみたいだな」

目の前の星ヶ丘在住の少女達の猫鳴館へ対する印象が若干良い方に傾いたのを肌で感じながら上機嫌で店番をしていた優。
そんな優の耳に聞き覚えのある声が入ってきた。

「御剣君」
「それ、『ねず』か？」

同じ寝子高生であり、猫鳴館のねず騒動の時に協力してくれた御剣刀もまたフリーマーケットに遊びに来ていたのだ。

「うん。ま、まずかったかな？鳶彦さん達に迷惑はかけたくないけど、ねずの話が忘れられるのもなんかさびしいから今回持って来たんだけど……」

不安そうな顔をする優に刀は笑って肩を叩く。

「問題ないさ、ねずの湯もあるんだしお風呂好きのこびとの伝説と合わせて売りだしてるんだから。猫鳴館にいるって直結することはないだろう」
「そ、そっか、そうだよね」

ほっと胸をなでおろす優に頑張れと短い励ましの声をかけた刀は掘り出し物を見つける為に再び歩き始めた。

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