ＣＯＭＢＵＳＴＩＯＮ－寝子島発火騒動｜リアクション

ＣＯＭＢＵＳＴＩＯＮ－寝子島発火騒動

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梢は作戦通り、入り口の壁付近の積み荷を崩そうとしていた。
しかし、突如として倉庫に響いた慌ただしい足音に動きを止める。
何事、と考えるほどの間もなかった。
「リーダーッ！！　あいつら逃げてやがるぜ！！！」
がなり声が、倉庫いっぱいに響いたからだ。
すぐさま蝶化を解除し、インカムで礼二に連絡する。

『――ごめんなさい、侵入がバレました！』
「やむを得ませんねぇ、突入を早めましょう」
インカムを通じた梢の報告に、しかし冷静に礼二は状況判断を下す。
「三ヶ島さん、鍵はどうです？」
『誰かパワーのある人が一押ししてくれれば、そろそろいけると思うよー！』
太った男の制圧後、葵は『Wucht Jagd』で倉庫正面扉の鍵を劣化させる作業にあたっていた。
「ではパワーに自信のある方、突破口を開いてください。次の瞬間にも火が点けられてもおかしくないですからねぇ、細心の注意を払いつつ人質の安全確保をお願いします。待機組は、人質脱出の支援を」
それから、と。モヒカンの対応に向かっていた記士郎と日暮ねむるに告げる。
「モヒカン頭の制圧をお願いします」

――倉庫の外の一角。
「そこの君」
合図を受けて、記士郎はモヒカンに声をかけた。
「あぁ？　んだてめぇ？」
眉間に深く深くシワを刻んで、モヒカンは露骨なまでに威圧的な態度を向けてくる。
「ここは使われていない倉庫のはずだけど、何をしているのかな」
「んなもん俺の勝手だろぉ？　あんたにゃ関係ねえだろうが」
「ほら、さいきんボヤ騒ぎが続いているから……こんな所に居たら危ないと思って」
ボヤ騒ぎ、という言葉にモヒカンは露骨に眉を上げる。直後、彼のポケットから携帯のバイブレーションが響く。
確認するまでもなく、察したのだろう。モヒカンはその自慢のモヒカンヘアーを撫で上げたかと思うと、
「死ねやオラッ！！」
風が唸る速度で、拳を繰り出した。
「っ！」
顔の前で腕を交差させ、記士郎はぎりぎりで拳を受け止めた。
しかし、身体強化のろっこんだろう――その一撃は、元ボクサーの彼をもってしても、重い。
ビリビリと痺れる腕の間から、モヒカンが二発目を繰り出すのが見えた。
反射的にスウェーする記士郎。鼻先をかすめた拳が、彼の前髪を揺らした。
直後、脇腹に衝撃。回し蹴りの一撃に、ミシ、と骨が軋む。
微かによろめく上体、そこにすかさずモヒカンは追撃を――
「天動さん！」
横面から、ねむるが飛び出した。
モヒカンの下顎を狙って食らいつくようなフックを、
「ガキァ寝てろや！！」
裏拳。
目の前に、火花が散った。口の中を切ったか、温かいものが溢れる感覚。
返す拳でもう一発、ねむるは自分が浴びせるはずだったフックを受ける。
ぐらつき星の散る視界で、しかしねむるは――
「ふぁ……」
あくびをしてみせた。あまつさえ、満面の笑みまでも。
「んだてめぇ……？」
ぶち、と。血管の切れる音が聞こえそうな程に、激しく激昂するモヒカン。その時、彼の意識は全てねむるに向いていた。
向けて、しまった。
忍ばせていたペンライトを、ねむるはモヒカンの顔面に照射した。
「っお！？　まぶしっ……！　――っぺ！？　んだこらぁ！？」
続けざま、口に溜まった血を吹きかける。
そうして怯んだ隙を突いて、記士郎がモヒカンに突撃。
足元から掬い上げるようにして押し倒し、モヒカンを取り押さえる。
「日暮さん！」
「はい！」
ねむるは倒れたモヒカンの腕に密着――関節技をしかけた。自らの身体が軋むほどに、満身の力をこめて。
そして意識を集中――『In to the Sleep　Act2』を発動させる。
「てめぇらこの、離せ！　おい、離せってんだよ！」
「誰が、離すか……っ！」
身体強化があっても、二人がかり。しかも関節を極められていては、ぬけ出すこともままらない。
そのうちに、モヒカンは眠りへと誘われていった。

起きないのを確認し、二人は急いでモヒカンの服を剥いで縛り上げる。
「……いててて」
「大丈夫ですか？」
顔をしかめるねむるに、記士郎が気遣わしげな視線を向ける。
「流石に痛いですね……でも、後で回復してもらうので」
苦笑しつつ、ねむるは倉庫の中に突入したであろう仲間たちに思いを馳せた。