ＣＯＭＢＵＳＴＩＯＮ－寝子島発火騒動｜リアクション

ＣＯＭＢＵＳＴＩＯＮ－寝子島発火騒動

新江天懸は、夜の寝子島をふらふらと一人歩いていた。
夜遊び帰りでまだ少し熱の残った身体を、冷たい風が撫でていくのが心地いい。
気の向くまま、足の向くまま。天懸は適当に人気のなさそうな方へと足を進める。
海の方に近づいてきているのか、磯の香りを含んだ風が鼻をくすぐりだした頃。
「……あぁ？」
角を曲がったその向こう、黒々とした夜の海を臨む漁港の近くに忽然と現れた人だかりに思わず足を止めた。
（……あれ、寝子高の人達じゃねえか？）
なんだって、こんな時間にこんな所に大勢いるのか。
まさか集団で夜遊び、ということもないだろう。しかもここは漁港近く。夜遊びするような場所ではあるまい。
一体何が何やらだが、とりあえずここは退散するのが吉だろう。
そう思い方向転換しようとした、まさにその瞬間。
「げっ」
竹刀袋を提げたやつだとかヒーローコスチュームを着たやつだとかが、慌ただしくこちらに向かってくるのが見えた。
隠れる余裕などなかったし、バッチリ姿は見られてしまっているだろう。
（……仕方ねえ）
さらっと混ざって手伝えば、あとは流れでなんとかなるかもしれない。
夜遊びのこと、バレるのもいやだし。

◆
走り回って熱くなった身体を、潮風が撫でていく。
体の中の熱はそれで冷めても、頭の中の熱は、焦りは、冷めることがない。
「――くそっ！」
鴻上彰尋は、苛立たしげに拳を脚に打ち付けた。
自宅の近くで起きたボヤ騒ぎを見に飛び出していった、弟と妹が見つからないのだ。
もちろん、彰尋だって弟と妹を放ったらかしていたわけじゃない。野次馬が多すぎて、ほんのすこし目を離してしまった隙に居なくなってしまったのだ。
ボヤ騒ぎの近くに居た人たちに聞きまわって、けれども見つからなくて。
少しずつ探す場所を広げていくうちに、漁港の近くまで来てしまっていた。
焦りばかりが、いたずらに募っていく中。彰尋の目に留まったのは、
「……志波先輩？」
何やら人だかりの中に居る、見知った生徒会長の顔だった。
わらにもすがる思い、というやつだろうか。気づけば、彰尋の足はそちらに向いていた。

◆
「倉庫の中に拘束された人が居て、しかも倉庫には火が点けられそうって話です。そんなの、絶対に阻止しなきゃいけない」
志波武道は、真剣な面持ちでそう告げた。
彼の話を聞いているのは灯斗南や風雲児轟、天動記士郎といった、たまたま武道たち【Leidenschaft】の集まりに合流した者たちだ。
「事情は大体わかりました。私たちは、志波さんの仲間の指示に従えばいいんですよね？」
「皆がバラバラに行動して、事態が混乱したら元も子もないですからね。ってことで、手伝ってもらえるなら記士郎さんたちもこれ持ってもらえます？」
そう言って武道が差し出したのは、【Leidenschaft】で用意したインカムだ。記士郎たちに、一つずつつ配っていく。

（目が合っちまったからつい来たけど、暴力沙汰には巻き込まれたくねえんだよなあ）
受け取ったインカムを一応つけながら、天懸は内心でひとりごちる。
ただ、夜遊びでふらついていたのをとやかく言われるのもさけたい。
とりあえず、流れで協力しておけば見逃してもらえるだろう……多分。

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