【お正月】寝子島神社に願いを込めて｜リアクション

【お正月】寝子島神社に願いを込めて

　壬生由貴奈は気怠げな眠気眼を擦り、晴れ着に身を包む。
　振袖に着替えたらと寝子島神社に向かう途中を待ち合わせポイントに決定し、のんびりと待つ彼女は大晦日と年越しも共に過ごした屋敷野梢の姿を見つけ、手を振った。
「やっほー、こずえちゃーん、改めてあけおめだねぇ」

　

「壬生せんぱーい！　ふっふー、こういう時はしっかり正装、ですよね！」
　どやぁと笑みを浮かべた『こずえちゃん』は華やかな朱色を纏って由貴奈の元へと走り寄ってくる。
　黒地に艶やかな花々と大人っぽいデザインを選んだ由貴奈と比べれば、明るい気性の梢によく映える赤だ。
「朱色って華やかだよねぇ、チョウチョもあしらってるし、素敵すてき」
　そのデザインにうんうんと頷きながらかわいいよと告げる由貴奈に梢は嬉しそうに唇で弧を描く。
「壬生先輩こそ、黒くてシックでかっこいーですよー！　あねさん！　わたしを舎弟に……」
　少しの悪ふざけも何時もの事。楽しげに告げる梢へと由貴奈は小さく笑みを零し「着付けには苦労したなぁ」と自分の振袖をじ、と見つめた。
　あまり着ない振袖ではあるが、気持ちも何処か改まる。
「……と、すごい列ですけど、先に参拝済ませちゃいましょーか」
「そうだね……」
　瞬く二人は行列にのんびりと並ぶ。会話をしていれば、長い列も直ぐに解消されるだろうと梢は大晦日楽しかったですねーと由貴奈を見上げた。
　彼女の家へと招かれた由貴奈にとって、不思議な一日だった。
　屋敷野の家について話を聞き、二人で年越しをする為に余った布団を並べる。一期一会の機会なのだと除夜の鐘が結びつけた出会いの続きを語らいながら賽銭箱の前へと辿りつく。
「んー……何をおねがいしようかな……」
　ぶつぶつと呟き、悩ましげに願った由貴奈の隣で明るい表情で「終わりましたー！」と梢は顔を上げる。

　――今年はもっと自分に素直になる。
　願った抱負は素直と言葉にしてから、違和感を感じて愚かになることと言い換えた。
　愚か、と首を傾いだ梢は「もう後ろもつかえてますよね、兎に角神様頑張ります！」と締めくくる。

　明るい表情で「願ったのは内緒です！」と笑うものだから由貴奈は小さくこてりと首を傾げた。
「……内緒って言うほどじゃないんですけど、自分でも結局何なのか……。先輩はどーですか？」
　彼女に促されれるように、余りない早口で「うちは……」と願いを口にした。
「『身の回りのフツウが守られます様に』ってとこかな。
　去年はあんまりにも色んな事がありすぎた、けど、だからこそ、それまでのフツウも大切だったと思えちゃって……。神様から貰った力もあるわけだし、自分の手で守れたらいいよね、って……なんか、語っちゃった」
　照れ臭いと柔らかに眉を下げた由貴奈に梢は「いいじゃないですかー！」と微笑みかけた。

　新年・初のおみくじバトルの時間だと袖をまくり梢がくるりと振り仰ぐ。
「説明しましょう！
　おみくじバトルとは、複数人でお参りに行った時に勃発する、おみくじを競って争う伝統的な戦いである！！
　古代寝子島では、このおみくじバトルの末に……――ざっくりいいますと、おみくじで運勢を勝負しましょー！　ってやつです」
　ドヤァと梢が笑みを零す。
　つまるところ『運勢バトル』だ。ルールもこれまた梢による説明がある。
　デッキを用意する訳にも行かないおみくじバトルではシングルルール――一枚のみの運だめしで戦うことになる。
「大吉は中吉以下に勝って、中吉は小吉以下に……となります。
　でも、大凶は全部に負けますが、大吉には勝てます！　オーバーフローの原理です！！」
　――オーバーフローの原理なのだそうだ。
　そのルールを理解したかしていないのか「こずえちゃんには負けないよぉ、ふっふっふー」と意味深笑みを浮かべた由貴奈に梢は瞳をキラリと輝かせる。
「おみくじ１つ引きますよ！　ふふ、ふふふ……この運勢ですか……」
「新年だし幸先いいと嬉しいんだけど、うちの運気はここぞという時に悪い目出しちゃうんだよねぇ」
「そ、それは、ブラフですか……！？」
　警戒する梢に由貴奈は意味深にワザとらしく御神籤を翳す。
　さあ、勝負の結果は――――！？

「見よ、中吉――！」
「ここは敢えての大凶だよぉ」
　勝者！　屋敷野梢！