おおそうじ！｜リアクション

おおそうじ！

「一応、それなりに掃除はしているつもりなんだが」
　家族から大掃除の話題を出され、御剣刀は自室を見る。呟いた通り、乱雑という雰囲気はない。
　しかし。
　――確かに、色々と溜まっているな。
　後で必要になるかと思って取っておいた物。実際に使った後に処分しないで放置しているもの。
「年末だし、この辺りを一気に掃除するか～」
　気合いを入れ、まず刀が向かったのは【人形】の元だった。
　片腕に乗せ抱えられるくらいの、黒を基調としたゴシックロリータを纏うビスクドールだ。
　名前を、『ルヴィア』という。
　ある事件ののち、刀が引き取ることになった存在だ。
　『彼女』が汚れないよう、別の場所に移動させてから掃除が始まった。

　窓を開けると、冷気が流れ込んできた。
「やっぱり師走は冷えるな……」
　刀は一瞬身震いするが、今は我慢どきだ。空気を入れ替えつつ、不要と判断した物を大きい物から順にゴミ袋に入れていく。
　続いて紙類。手に取ったのは過去のテストの答案用紙。内容を見た刀が顔をしかめる。
「酷い点数だ……うん、捨てて忘れよう」
　古い物を捨てて過去を綺麗に忘れる。先人は良いことを言ったものだと思う。
　続いて、何かのチラシ。
「これ期限過ぎてるし意味ないね、捨てよう」
　暇つぶしに買った漫画雑誌。
「カップ麺の重しに丁度よかったんだよな……」
　だけど捨てよう、とこれもゴミ袋へ。
「温泉旅行に行った時のパンフレットか。あれは楽しかったな～」
　思い返し、また行きたいと思う。とりあえず情報としてはその時に改めて調べるので、パンフレットは捨てることにする。
　そんな風にポイポイとゴミを袋に詰めていくと、いつの間にか結構な量になった。
「これは、あれだな」
　平気平気と思っていたけど全然平気じゃなかったパターンだ。
「来年はもう少し小まめに掃除しよう……」
　反省する。
　来年も忘れてるかもな、と心の隅で思いながら。

　大まかなゴミをまとめたら、次は掃除機。細かいゴミを除けば雑巾がけだ。普段見えない棚の裏側も掃除して、窓もついでに拭いておく。
「普段拭かないからな～って、黒！？」
　枠とか網戸とか拭いてると想像よりも雑巾が黒ずんでしまって、ちょっと引いた。

　掃除するポイントを明確化していたおかげか、さほど時間をかけずに刀の掃除は終わった。
　空気も十分に入れ替わった。すっきりした空気の中、刀はご飯を作る。
　元の場所に戻したルヴィアを前に、「いただきます」と食べ始める。
「そろそろ、メンテナンスに行くか」
　人形の製作者たちとの約束を思い返し、刀は話しかける。
　応えはない。元より彼女と話せたのも、神魂の影響があったからこそだ。
　今ではただの人形――でも、思い出という名の心は、ある。
　その心がある限り、『彼女』が抱いた暗い感情が晴れる日も来るのではないか。
　かつて「ごめん」としか言えなかった自らの過去。それを綺麗に忘れることができるよう、刀は未来のために行動する。
「ルヴィア、来年もよろしくな」