おおそうじ！｜リアクション

おおそうじ！

　大晦日になった。
　旧市街にある仙藤紫の家でも、午前中は大掃除となっている。
　紫は家族を手伝って、風呂やキッチン、トイレなどの水回りの掃除や、拭き掃除などを終わらせた。そのあとに、自分の部屋の片づけに移行する。
　もう毎年のようになっているが、紫が大掃除で時間をかける事はあまりない。几帳面と評される性格のおかげか、衣類や小物、本などの整理はこまめにしているというのもある。
　まったく不要なものがないわけではないが、そういったものは頃合いを見て古本屋や古着屋などに売って小遣いにしたり、チャリティに出品している。家族でタイミングを合わせることもあるので、年末には処分するものがほとんど残ってないというのが実際のところだ。
　紫にとっての大掃除は、軽く家具を拭いたり、掃除機をかけたりすれば終わるもの……そういうもののはずだった。
　タンスの引き出しをいつもより大きく開く。窓からの光が中を照らして、そこで目にした輝きに紫は動きを止めた。
「…………」
　まだ残っていた。
　引き出しの奥から出てきたピアスには、淡い色合いの紫水晶（アメジスト）がはめ込まれている。それが紫の心を表すように、小さく揺れていた。
「なんで、まだ」
　なぜこんなものがまだ残ってたんだろう。
　疑問の言葉は虚ろで。
　紫の心は答えではなく、記憶を呼び覚ますことでそれに応えた。

　これを初めて目にしたのは、去年の十一月。
　誕生日にもらったものだ。
　相手は――
　紫はそこで頭を振った。しかし脳裏に浮かんだその男性は消えず、あの日の自分に紫水晶のピアスを差し出した。
『君の名前にちなんで、ね。もっとも誕生石だとアメジストは――』
『二月の誕生石ね。十一月はトパーズかシトリン』
『……お気に召さなかったかな？』
　紫は首を軽く動かして、否定を示した。
『私はこっちが好き。私の名前だからってわけじゃないけど、何となく落ち着くのよね……』
　そのあとは言葉が途切れて、紫は微笑した。見つめ合ったまま互いの唇が近づいて――。

　キスをした。付き合いだしてから三カ月目、最初のキスだった。
　でも夏の終わりごろに始まった恋は、やっぱり夏の終わりとともに過ぎ去った。
　淡々と始まった恋は、淡々と続いて、淡々と終わった。
　でも、思い出は淡々と終わってくれない。在りし日の恋の欠片が光を放って、紫の心が言いしれぬうねりを感じる。
　どうしてここにしまったままだったのだろう？
　どうしてしまったことを忘れていたのだろう？
　答えは、今の自分だ。
「……引きずってるわけじゃないけど」
　そっと、引き出しを元に戻していく。
「まだ……終わっていないのね」
　小刻みに震える紫の輝きを、再び闇の中に戻して。
　紫は静かに、時に委ねた。

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あとがき

担当マスター：叶エイジャ
ファンレターはマスターページから！

このたびは「おおそうじ！」にご参加いただき、ありがとうございました。
マスターの叶エイジャです。

皆様の「掃除」に関連したエピソードや想い。それらのこもったアクションを拝見し、とても楽しく執筆させていただきました。
アドリブ度Ｓの方に関しては、こちらでアクション内容のニュアンスを解釈し、踏み込ませてもらった部分もあります。
それらが参加者様の深みをより増す結果につながったのなら、嬉しく思います。
想いの詰まったアクション、ありがとうございました！

またのご縁がありましたら、宜しくお願いします。

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