天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

大脱出！

「あっ、拓郎ー♪」
「……彩葉、さん……！？」
　魔界にて、恋人たちは再会した。高梨彩葉は両手の指を悪魔な彼氏にきゅっと絡ませ、にぱっ！　輝くような笑顔。
　しかし、志波拓郎はまるで信じられないものを見るかのように、彩葉を見返した。
「私、魔界のエステで、悪魔流美容法っていうのを体験してみたんだけど……どうかな？　綺麗になれたかな……拓郎？」
「…………き……綺麗、だ……すごく！」
　ぼんやりとした拓郎は、何のことは無い。小悪魔的魅力をこれでもかと放つ彼女に、見とれていただけだったらしい。
「えへへ、ほんと？　嬉しいな……♪」
　ふたりはしばし、見つめ合った後。手を繋いだまま、ふわりと仲良く飛び上がり、魔界観光の続きへと出かけていった。

　もはや互いしか目に入らないらしい、恋人たちの頭上を飛び越えて。
「まったく、羨ましいことね……、はあッ！！」
　栖来衣夢はくるりと反転、オーバーヘッドキック！　空中で交差した悪魔を蹴り落とし、黒い翼を羽ばたき姿勢を安定させると、再び飛び続ける。
　４人の大悪魔を相手に勝利を収めたことで、追撃の手はいくらか緩んだものの、有象無象の悪魔たちはいくらでも、湧き出るように追いすがる。
　前方でどかんと巨大な音が響き、熱気が頬を焦がす。火山の火口、爆発のすぐ傍らに見える白い光は、あと少しで手の届くところにあった。
「Volcano、もう少し！　頑張るデスヨ、カタナ！　ユキノ！」
　先導して前を飛ぶトワ・E・ライトフェロゥに、相変わらず島岡雪乃を背負ったままの御剣刀。
「す、す、すみません御剣君、ご迷惑をおかけして……」
「いいんですよ、先生……っと、危ない、ライトフェロゥ！」
　片手で先生のお尻を支え、空いた手で刃引き刀を一閃、悪魔を弾き飛ばす。
　夜海霧楓がかなりの数を引き受けてくれたおかげで、彼らは比較的スムーズにここまでたどりつくことができたものの、目的の石を前に、襲撃は激しさを増してきたようだ。
　とはいえ、それを跳ね退けるのに足る、頼りになる仲間たちの姿もまた、この場にはあった。
「っ……こっちよ……！」
　碧川雪月が飛び出し、数人の悪魔たちの目を惹きつけたところで、
「……邪魔だぜ、雑魚が。ブッ飛びな……！！」
　如月庚の蒼く輝く拳が、数人を一度に薙ぎ倒し、
「っと、しばらく眠っててよね。碧川さん、ありがと、助かるよ」
　ごとり、と眠りに落ちて転がった悪魔には目もくれず、日暮ねむるは微笑んだ。
「……砕けろッ！！」
　八神修は溶岩石を『分解』し、砕けたそれを鋭く射出、並んだ悪魔たちをつるべ撃ち。
　その援護を受けつつ、傍らを駆け抜けたのは、
「行け、真央！」
「りょーかいなのだ行くのだがおー！　石を飲み込んじゃってもいいのだとにかく先に手に入れるのだ！」
　後木真央に、召喚デブ猫がおー。
　強烈な熱気を放つ溶岩の河をひらりと飛び越えれば、純白に輝く不思議な石、白魂石はもう目の前だ。
「もらったのだあああ、うぇっ！？」
　あと、一歩。現れた大型の悪魔が振り下ろした拳が地を砕き、真央はぐぬぬと歯ぎしり、咄嗟に飛び退る。
　しかし。全て、無駄では無かった。
　もとより飛ぶのは慣れている……悪魔がちょこまかと走り回るがおーに気を取られている隙に、鋭く飛翔し、股ぐらを潜り抜けて石へと手を伸ばしたのは、衣夢だった。
「悪いわね！　これは……私たちのモノよ……っ！！」
　仲間たちの作り出した、好機だった。
　ぱしり！　衣夢がそれを掴み取った……その、瞬間に。
　石からあふれ出した凄まじい白光は、瞬く間に広がって、魔界を呑み込んでいく。

　火山から迸る白光を見上げて、桜崎巴はにんまりと笑う。
「あたしたちの勝ちだね。魔界はこれにて、制圧完了！　さあて、次は天界を支配してやろうかね……」
「……ふん。そいつァまだ、気が早いってもんだぜ」
「ああん？」
　今や逆モヒカンとなった大悪魔、カンシャックはうなだれながらも、瞳に宿る最後の抵抗の光は消さず、言った。
「魔界は広いんだぜェ……大悪魔が俺たちだけだと思ったか？　俺たちが、魔界で最強の悪魔だとでも？　魔王や大魔王が動き出しゃァ、てめェらなんぞひとひねり……」
　言葉のさなかに、彼は口をつぐんだ。
　にィ……見下ろす巴が、嬉しそうに、まさしく魔王といった表情さながらに、口元を捻じ曲げて笑ったので。
「そいつは何より。楽しみが増えたね、くっくっく……！」
　また来るよ。そう言った直後に、巴やその仲間たちは、波のように広がる白光に包み込まれて、魔界を後にした。

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