天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

大悪魔『カンシャック』（３）

　いつもの朗らかな彼を知るなら、にやりと口元を吊り上げた剣呑な表情に、眉をひそめたかもしれない。
「ガンガンぶっ飛ばすぜ、オラオラかかってこいやー！！」
　いつになく好戦的に叫んだのは、楢木春彦だ。
　左耳のピアスを二度なぞり、空中へ作り出した足場を駆け上って、上空の悪魔を強襲。殴りつけて失墜させると、再び生成した足場を蹴って羽ばたき、次の悪魔へ強烈な飛び蹴り。飛ぶことは未だ完璧ではなかったが、ろっこんとの併用で、空中での機動に不自由は無かった。
「親玉もザコも、関係ねぇ！　全部ぶっ飛ばすッ！！」
　まるで狭所に跳ね返るピンポン玉のごとく、次々に悪魔たちと叩き伏せては高速移動。春彦の活躍は目覚ましく、取り巻き悪魔たちはカトンボのように落ちていく。
　そんな風に前のめりに見えて、仲間の援護があれば、守りも強固だ。
「調子に乗ってンじゃねェッ！！」
　瞬時に眼前へ飛び上がり、あの恐るべき拳を繰り出したカンシャック……だが、
「よっ、と。楢木君、大丈夫？」
「……悪ぃ須崎、助かったぜ！」
　須崎蒼志が握り締めた、ビリヤードボールの９番を中心として展開されるバリアが、剛拳を受け止めてみせた。最小限に範囲を絞ったにも関わらず、バリアは一撃で砕けて消えてしまったものの、間合いを離して仕切り直す程度の隙を作ることはできた。
　ついでに立ち塞がった取り巻きのひとりへ、パンチをぶち込んでおくのも忘れない。蒼志も同様に、悪魔となった影響を受けていて、普段よりいくらか攻撃的だ。
「部下が邪魔だなぁ。親玉と直接やり合えれば早いのに」
「確かにな、そうそう甘くはねぇ……っと、これでも喰らいやがれ！」
　蒼志の大柄な体躯を目くらましに、春彦は飛び出して取り巻きへ一撃。
　カンシャックの部下たちはその数を減らしてはいるものの、それでも横やりが入るのは鬱陶しく、何より対応したところに隙を作ってしまうことにもなり、危険だ。
「ハイハーイ。それじゃそっちは、オレたちが何とかするよぅ」
「……悪魔だぞー……！」
　そこでずいと前に出たのが、呉井陽太と榊彩斗、寮では同室同士の仲良しコンビだった。
　陽太の手のひらの上には、兎のウー君、犬のパド君、鶏のドリー氏などなど、得意の粘土細工が勢ぞろい。それらを指でつんとつついた途端に、粘土細工たちはしゅばっと飛び出し、ウー君は取り巻きの顔にひっついて妨害、パド君が噛みつきで攻撃。時にはフェイントをかけ、その隙にドリー氏が渾身の、こっこキック！　巧みに操作して、部下悪魔たちの目を惹きつけ撹乱していく。
　ちなみにその間、彩斗はと言えば、時に愛用の（？）藁人形をフリフリ、周囲を威嚇しながらも、
「……よーた……！　よーた……！」
　陽太を応援するのに忙しかったりした。陽太がサムズアップをびしりと返せば、彩斗の瞳はきらきらと輝く。
　ぬいぐるみと視覚を共有、後ろからの不意打ちで飛びかかってきた悪魔を難なく避けると、陽太はぬいぐるみたちを一斉にけしかけ翻弄。その隙に、
「サンキュー呉井！　おっし、行くぜ須崎、親玉ブン殴るぞ！」
「了解。守りは任せてくれ」
　春彦と蒼志が飛び出し、
「俺も……なぐるぞ。ただひたすらになぐる、ぞ……！」
「オッケー、援護するよぅ」
　取り巻きのひとりが持っていた棒切れを犬のパド君がひったくり、彩斗へパス。彼もまたふたりへ続き、棒を振り上げ駆けてゆく。
　見れば彼らの他にも、多くの仲間たちがカンシャックを囲み、強大な力を持つ大悪魔へと立ち向かっている。
「ムカツクぜ、てめェらァ……！　いい加減に、くたばりやがれェッ！！」
　吠えると同時に地が爆発し、決戦を演出するかのように、溶岩流が噴き上がる。
　戦いはやがて、クライマックスへと突入していく。