せんせいといっしょ：桐島先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：桐島先生編

●先生へ伝える想い！

　上條暦は呼吸を整えていた。
　綺麗な黒髪ポニーテールと赤いリボンを揺らし、心臓が鳴らす早鐘の鼓動を響かせている。
　眼の前の姿を一目見た瞬間、暦の心の中で何かが芽生えた気がしたのだ。

　――桐島先生。

　暦が常日頃からお世話になっている相手だ。
　しかし普段から見慣れているはずの姿がなぜか遠く感じられる。
　いや、距離の問題ではないのだろう。
　きっと暦の心が恐れているのだ。この気持ちを伝えてしまったら、すべてが壊れてしまう……と。
　そんな恐怖心が暦を義弘から遠ざけてしまっている。
　こんな事なら、いっそ気が付かなければよかった、そう暦は思うのだけれど。

（ダメだ、）

　それじゃあ何も変わらないのだと。
　臆病にしていては、いつまで経っても何も変わらない。
　つり目の瞳に力を込め、顔を上げた。
　伝えるのは、今しかないのである。

　そんな視線も知らず、桐島義弘はある部分を気にしていた。
　妙な違和感。気にしないようにしていたはずのもの。
　しかし今一度、気にし始めるとその意識は集中するものである。
　その義弘の微妙な変化に気づいた勅使河原悠はそっと顔を覗き込む。
（……あれ、先生……後ろを気にしている気が、）
　悠には何となく覚えがあったのだ。義弘がしきりに気にするその場所に。
（もしかして……ま、またなのかな……？）
　そう思考を巡らせるだけで、悠はそっと視線を落とした。
　まだ確信は無いし、何より告げる勇気にはなかなか繋がらない。
　悠がどうしようかと困っていた、そんな時。

「あ、あの……きっ、桐島先生！」

　勇気を出した暦が義弘を名を呼ぶ。
　振り返って驚いたのは暦の顔が真っ赤だったこと。それでも平常心を装って。
「上條か。どうした？」
　声は若干落ち着かない感じが滲んだが、それでも大きく不自然では無かった筈だ。
　あくまで本人の中では、だが。
「その、わ、私……突然ですいませんが、その。どうしても先生にお伝えしたい事があって参りました！」
「……な、なんだ？」
「で、できればすぐにお伝えしたかったというか、お伝えすべきなのか、すごく迷ったのですが……」
　暦の言葉はなかなか答えには辿り着かない。
　いや、彼女の前には大きな壁があるに違いない。
「……先生は普段から実直で我々生徒に対しても真摯に接して下さいます」
「……」
　突然の褒め言葉にどう返していいか解らず、言葉は喉元で止まってしまう。
　否定も、肯定も、することは出来なかった。
「で、ですから……私も、真摯な姿勢で勇気を出してお伝えします」
「あ、あぁ」
　ただならぬ気迫と、勢いに若干たじろぐ義弘だったが、後ろに下がろうとも逃げ場はない。

「…………桐島先生……っ……！」

　その真っ直ぐな瞳、真摯な表情。
　義弘も周りもごくりと唾を飲んだ。

　こ、これはまさか……っ！

「……ズボン、破けてます」