せんせいといっしょ：桐島先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：桐島先生編

●先生へしつもん！

（……よ、よかったっ）
　わからないところの謎も解け、勅使河原悠はホッと一息ついた。
　数学は苦手だが、こうして少しずつ理解していくことは嫌いじゃない。
　そっと桐島義弘先生の顔色を伺えば、やはりいつもよりは優しげな気もする。

（いつもは少し怖いけど…い、今なら、あの時の……、）

　――マウスパッドの事も、聞けそうな気がする。
　悠はどうしても気になって仕方ないあのことを思い浮かべていた。
　あの日、宝探しで開けてしまった義弘の机。
　見つけた例のもの。あの時は動揺とショックで何も聞けなかったが今ならばと、拳を握り締める。
「あ、あのっ……桐島、先生……」
「どうした、勅使河原」
　なんて聞こうか、考えるほどに頭のなかがぐるぐるとする。
　他の生徒もいる手前、大きな声で言うことは出来ないので口元に手をあて、
「あ、あの……あの時、無理に引き出しを開けて、すいませんでした……」
　まずは謝罪一つと、深々と礼をして。その後にはずっと気になっていた質問を。
「あのマウスパッド……じ、実用的って……やっぱりよく使われるんですか……？」
「なっ！？」
　質問にぴしりと固まる。
　まさかあの日の話題が再び持ちだされようとは！
　しかし動揺してはあの時の二の舞だ。二度は失敗しまいと心を落ちつけた。
「使用するが、あくまで手首の疲労軽減だ」
「……手首です…か？」
「手首だ。手首の疲労軽減だ」
　大事なことなので二回言いました。
　先生頑張りました。

　そんな二人の話に聞き耳を立てていた常盤四月が、義弘の反対側の耳へと耳打ちする。
「職員室の机の引き出し上から二番目に、少年にゃんぷ連載中の人気漫画の某キャラのおっぱいマウスパッド隠してるってホントだったんだね？」
「なっ、なっ……！」
　具体的な詳細にまたも義弘の動揺が溢れ出すが、四月は話を止めない。
「実はあたしもあの漫画の大ファンで！」
　特に●●と●●の熱すぎる友情に萌えー！！　と声を高らかにし、先生と漫画の話がしたいとキラキラした視線を向けた。
　中身の詳しい話は良くわからないが、あのマウスパッドよりも原作に視点が行ったことに内心ホッとする。
　彼女のラインは数学的に美しい――うっかり口を滑らせればまた騒ぎにもなるだろう。
　先生は確りと学んでいるようです。

「ねぇねぇ、他に追っかけてるのはある？　ほら、例えば――、」
　四月はさりげない話題誘導で一つの漫画の話を出してみる。
　実は四月自身が公にはせず連載している漫画らしく、生の声を聞きたいという密かな願い。
　いつか連載を取るのが夢、それが四月の野望だ。
　残念ながら詳しい話は聞けなかったが、筋は良いとの評価だけでモチベーションを上げるには十分。
　心のなかでガッツポーズしたことは四月だけが知っていること。
「ねぇ、センセは仲のいい先生いる？　あ、同性限定ね！」
「何故、同性限定なんだ？」
「えっ？　ただの好奇心だよ。決して不純な動機やゲスい下心じゃないから安心して」
「……」
　なんか怪しい。
「ほら、桐島センセってクールでカタブツでとっつきにくいから友達いるのか心配で～」
「……」
　無言の圧力が怖い。
「あはは」
「……本当の質問は何だ？　常盤」
「あ、えっとぉ」
　次は四月が返答に困った。まさか本当のことなんて言うわけにはいかない。
　まさか、本当の理由が――、

（……今度出す桐島総受け本のリサーチなんて言えないよ！）

　なんてことは。