せんせいといっしょ：桐島先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：桐島先生編

「こんにちは、桐島先生。同席しても良いですか？」
「ああ、構わないが、」
　そんな二人をお茶を持った御剣刀が覗きこんで桐島義弘先生を挟み、藤原春樹と反対側に座った。
　部活に行く前、偶然にも食堂の前を通りかかり、桐島先生を見かけた。
　何をしているか気になって、近づいてきたのは春樹と同じ。
　パズルをする二人を見ていた刀は思っていたのだ。
　普段は固く話題を選ばなくてはいけない桐島先生だが、パズルに勤しむ今ならば――、
　授業に関係ないことも答えて貰えるかもしれない。

「実は聞きたい事があるんですけど」
「なんだ？」
「学年主任ってどんな仕事をしているんですか？　少し気になって……」
「どんな、と言えば他の一年担当教諭をまとめる仕事だが」
　詳しく知りたければ、本人に聞いたらどうだと、詳しくは説明せずやや濁し気味の回答だ。
「まとめる……仕事ですか」
　一年の担当教諭をまとめる。
　その位置にいるは刀の担任――島岡雪乃先生だ。
　実は先日、偶然にも街でその雪乃に遭遇した際、刀は心配になるような騒動に出くわしたのであった。
　その際に思ったのが、大学出たてで学年主任は色々大変なのではないかと言うことだ。
「先生から見て、島岡先生はどう見えますか？」
「まだまだだな……だが、がんばる姿勢だけなら評価できなくもない」
　彼女なりに頑張っていることは評価しているらしい。
「随分と気にかけているのだな」
「島岡先生は担任ですし、剣道部の顧問でもありますから。気にしすぎだとは思うんですけどね、放っておけないんです」
「なら……なおの事、本人に質問して、その言葉をかけてやるといい。それが一番伝わるだろう」
「それもそうですね」
　心配ならば、声をかけるのは自らで。
　義弘の返答は厳しくも、もっともな物だった。
　そんな二人の空気に割って入ったのは、パズルとの見つめ合いを中断した春樹だ。
「あ、そうだ先生。先生もメロンパン食べますか？　いっぱいあるんで。美味しいですよ」
　春樹からがそっと差し出されたのはメロンパン。
「……」
　生徒からの食べ物を受け取っていいものか、むしろ指摘すべきだろうかと悩む義弘の傍らでは……、
「君も食べる？」
「あ、良いのか？」
　刀は春樹からメロンパンを受け取ている。
　厳しい桐島先生の手前、少し躊躇いもしたが……義弘はまだメロンパンとにらめっこ中のようだ。
「桐島先生……？」
　刀がそっと様子を伺うと、眼鏡を直す仕草をして義弘は一息吐いた。
「……放課後だからな、咎めないでおこう。しかし、鞄の中に食べ物ばかりというのも学生としては」
「まぁまぁ、先生。食べてみなよ、美味しいよ？」
　春樹のマイペースに、義弘は一息溜息をついた。
　刀と義弘は同時にそのメロンパンを口に運び、一口。

「「！？！？！？」」

　辛い！
　メロンパンなのに何故か辛い！！！！
　いや、辛いなどと言う生易しい物ではなく、どう考えてもただのメロンパンでは無い。
「メロンパンって”辛くって”美味しいよね～」
　あのパンは辛い系統のものだったかと、うっかり考えてしまう刀と義弘。
　このメロンパンの正体は独特の味覚を持つ春樹の激辛メロンパン。
　ほのかなグリーンは、練り込んだ青唐辛子のグリーンで、過去の弁当争奪戦の時にも猛威を振るった代物だ。
　二人の救いと言えば、手元にお茶があったことに違いない。
　叫ぶこともなく、二人は（辛さと）無言の戦いを続けている。
「あはは、楽しいなぁ……」
　春樹のマイペースは変わらない。でも。

（でも、何か忘れてるような……？）

　はて、と首をかしげるも、結論は『まぁ、いっか』のこれまたマイペース。
　果たしていつ思い出されるのだろうか、彼の黒猫の存在は。

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