【お正月】初夢が見られなくなる！？｜リアクション

【お正月】初夢が見られなくなる！？

●大切な人と過ごすひととき

　御巫時子は、２０歳前後の大人の女性になっていた。
　向かう先は、恋人である五十嵐尚輝先生が住んでいる旧市街のアパート。
（起きているといいのですけど……）
　何度か朝ご飯を作ったり、掃除、洗濯をしたりとアパートに行くのだが、時々、まだ寝ていることも。
　合鍵を渡してもらえたが、勝手に入るのは気が引けるので待っていたり、入る前に電話したこともあった。
　五十嵐先生を誘い、どこかに出かけようと誘いにアパートに向かう途中、後ろを何かが通り過ぎたような気がした。
「気のせいでしょうか……」
　アパートに着くと、起きていますように……と祈りながらアパートのドアをノックする。
「おはようございます、尚輝先生」
「時子さん……？　ちょっと待ってください」
　着替えるから待っててくださいとドア越しに伝え、時子に待ってもらう。
　時子は大人になったのに対し、五十嵐先生は現実と全く変わっていない。
　
　普段着に着替え終えた五十嵐先生がドアを開ける。
「待たせて悪いね……上がって」
　まだ眠そうな顔で、ボサボサ頭を掻きながら時子を招き入れる。
「お邪魔します……」
　休みの日になると、時子は五十嵐先生のアパートに行き、ご飯を作りに来ている。
　通い妻のようなことをさせていますね、と思いつつ、彼女の好意に甘える五十嵐先生。
　何を作りましょうか……と考えていると、窓の外に鷹が飛んでいるのが見えた。
　朝ご飯ができるのを待っている五十嵐先生は何をしているのでしょう？　とチラ見すると、富士山の写真集を眺めていた。
（鷹に富士山……初夢……とくれば、これですね……）
　ということで、茄子の煮浸しを作ることに。これで初夢で縁起の良いとされるものを制覇した。
「ご飯ができました……覚めないうちに召し上がってください……」
　作ったのは茄子の煮浸し、焼き魚、豆腐のお味噌汁。
「いつもありがとうございます。では、いただきます」
　親密な関係になったものの、時子を名前を呼ぶ時の五十嵐先生はよそよそしい。まだ慣れていないようだ。
　作った朝ご飯は五十嵐先生が好きなものを用意した。
　作るのに苦労するものもあったが、美味しいものを食べてもらいたいと努力した甲斐あり、五十嵐先生好みの味付けに。

　ご飯が済んだ後は、食器を洗ったり、ゴミを捨てたりと台所の後片付けを。
　そんな時子の様子を見て、五十嵐先生はコーヒーを飲みながら微笑む。
「今日はお天気が良いですし、お散歩に行きませんか……？」
　五十嵐先生が食後のお茶を飲み終えたのを見計らい、時子は彼を散歩に誘う。
「そうですね……行きましょうか」
「では……後片付けが終わったら行きましょう……」
　台所のゴミ箱の近くには、空の弁当箱やカップ麺のカップがゴミ袋に入っている。ごちゃ混ぜなので分別を。
　ゴミ収集日は明日なので、また来た時に捨てにいけばいい。
　分別後、食器を洗っていたら突然、部屋の中に見慣れない動物がどこからか入ってきた。
（あの姿は……夢を食べる獏さん？　私の夢を食べるんですか……？）
　とても良い夢なので、起きていても憶えていたいので食べられては困る。
（食べられたくないです……）
　夢の中とはいえ、五十嵐先生に迷惑をかけることになりかねないので鳥の姿に変身し、捕まらない程度に飛んでアパートを去った。
　疲れると食欲より睡魔に負けるかもしれないと思いつつ、食べ過ぎで走ると獏の体調が悪くなりそうなので大丈夫かと心配する。

「あの鳥、獏を追いかけているのか？」
　探しているうちに時子の夢に入り込んだ御剣刀は、途中で合流した風雲児轟に尋ねた。
「誰かが夢の中で鳥になったんだろうな。俺には逃げているように見える。良い夢の邪魔をされたんだろうな、あの鳥。助けてやるか」
　俺達が守ってやるからこっちに来いと声をかける轟に、鳥は近づくと肩に止まった。
（このまま鳥でいたほうが良さそうですね……）