【お正月】初夢が見られなくなる！？｜リアクション

【お正月】初夢が見られなくなる！？

●獏との出会い

『ハラ……ヘッタ……モットタベタイ……』
　真夜中の寝子島を徘徊していた獏は、眠っている誰かの夢に入り込んだ。

　空腹に堪えられなくなった獏が最初に入り込んだのは、図書館にいる綾辻綾花の夢。
　綾花は、学校の図書室や図書館の本が次々に消え、全て電子化する夢を見ていた。
　図書館や図書室だけでなく、書店にも紙の本は一冊もなく、パソコンやガラケー、スマホ、タブレットの類が棚にズラリと並んでいるだけ。
　これでは家電製品店である。
（こんなの、図書館や図書室、書店じゃありません、あんまりです）
　ケータイ小説とかも読んだりするが、紙の本を読むのが一番好きな綾花にとってこれは悪夢に近い。
　どうしてこんなことに……と考えていると、電子化された図書館の映像が吸い込まれるかのように消えた。
　夢は消え去り、辺りは真っ暗に。
　暗い中、地響きのような何かが歩く音が。暗闇に目が慣れると、そこには１匹の奇妙な生き物がいた。
「あなた、ひょっとして獏？」
　本で見たことある獏と違いブクブク太っているが、姿が似ているのでおそるおそる尋ねてみた。
　言葉が通じたのか、獏はコクコク頷いた。
「獏さん、夢を食べてくれてありがとう。さっきの夢、私にとってはあまり良くない夢でしたから」
　そう言いながら、獏にそっと近づくと優しく撫でた。
「夢の中で、本物の獏に会えるとは思いませんでした」
　撫でられて安心した獏はウトウトしかけたが、ぎゅるる～と響いた音でビクッと。
「お腹がすいているんですか？　夢を食べてもまだ足りませんか？」
　コクンと頷く獏。
「一緒に夢巡りに付き合います。悪い夢を食べてくれたお礼です」
　ゆっくり立ち上がった獏は、次の夢を食べるべく、どこかに歩き出した。
「ま、待ってください」
　追いかけた綾花は、誰の夢の中にたどり着くのだろう。
（いろんな人の夢が見られるのってドキドキします。獏さんが食べすぎて、お腹が重くて歩けなくならないかと心配ですけど）
　不思議の国のアリスになったような気分です、と綾花は獏を追いかけた。

　森蓮が見ている夢は、１学期に受けた寝子高の国語の授業。
　寝子高正門から東門にかけての桜並木の下、暖かい日差しの中での授業は手のひらサイズの栞に自分の目標を書くというもの。
　目標を持ち歩くことができそうだからと手渡された淡い桜色の栞に、連は理想の自分を何にしようか真剣な表情で考える。
　発表が蓮の番になり、目標を言おうとした時、突然、強風が吹いて辺りが桜の花びらで覆い尽くされた。
「これは一体……」
　花びらが消えたかと思えば、辺りは桜並木から薄暗く、何もない場所に変わった。
「どういうことでしょうか」
　辺りを見回していると、どこからか少女の声とドシドシと何かが歩く音が聞こえた。

　地響きのような音をさせていたのは、ブクブク太った妙な生き物だった。
「待ってください、獏さん」
　声の主は、獏を追いかけながら夢を渡り歩いていた綾花だった。
「綾花さんじゃないですか。どうしてここにいるんですか？」
「話すと長くなりそうなんですけど、こういう事情がありまして……」
　綾花は自分の夢が獏に食べられたこと。
　他人の夢を食べようとする獏を追いかけているうちに蓮の夢に辿り着いた経緯を話した。
「そういうことでしたか。獏さん、お腹がすいたので夢を食べたかったのですね」
　獏がどうあるべきか、どうありたいかは別として、どんな望みでも、いくつでも、望むだけなら獏の自由。
　だからといって、むやみに他人の夢を食べて良いというものではない。
　そう思った蓮は獏と話をすることにしたが、する間もなく、回れ右すると少し速度を上げて歩き出した。
「行きましょう、蓮さん」
「ええ。説得しないと、次々と夢を食べてしまいそうですし」

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