【お正月】初夢が見られなくなる！？｜リアクション

【お正月】初夢が見られなくなる！？

●食べ物の怨みは怖い

　御剣刀は、目の前の光景に瞳を輝かせた。
　昔懐かし卓袱台の上にあるのは、たくさんの美味しいご飯。良い匂いが食欲をそそる。
「おーっ、美味しそうなご飯がたくさん！　いただきます！」
　合掌してから、真っ先にご飯茶碗を手にし炊き立てご飯を食べる。
「美味しいー！　最高ー！」
　ご飯だけでなく、和食、洋食等、さまざまなおかずが「これでもか！」と言わんばかりにある。
（剣術関係の初夢見ても夢だしな～。必ず叶える目標だし、こっちの方がらしいか）
　腹が減っては戦はできぬ、と次から次へと満面の笑みを浮かべながら平らげる。
　贅沢気分を満喫中、何かが勢い良く刀の背後に激突。その拍子に、刀は卓袱台ごと転倒してしまった。
「あー！　ご飯がー！」
　よくも食事の邪魔を……と怒りに震える刀は誰だ！　と振り返る。
　背後には、丸々と太ったワケわからない生き物が。
（こいつ、夢を食う獏って伝説上の生き物に似てるな。獏だとしたら……）
　刀の考えが正しければ、この夢が食べられてしまう。
「この夢を食うのだけは勘弁してくれ！　現実でやったらお金が足りなくなるんだよ！　夢の中だけでも贅沢させろよ！」
　言葉が通じないのか、獏はお構いなしにひっくり返ったご飯を食べている。
「俺の夢を食うな！」
　食べていたかと思えば、急にやめ、どこかに向かい走り出した。
「待て！」
　ご飯の邪魔したこと謝れ！　と刀は必死に追いかけた。

　獏が向かった先は、鬼河内巌の夢。
「おお！　これがわいのろっこんか！　ええのう！！」
　巌は、遂に『いつでも何処でも美味いカレーを作る』ろっこんに覚醒したので猛烈に感激している。
「これで、いつでも美味いカレーが食えるのう。さっそく調理じゃあ！」
　材料を大量に買い込んだ後、寝子高の家庭科室で、さっそく色々なカレーを作る。
　ビーフカレー、カツカレー、シーフードーカレーと様々なカレー完成という頃、家庭科室のドアが開かれた。
「あー、やっぱりカレーだ！　良い匂い」
　匂いに誘われやってきた野々ののこ。
「良い匂いね。食欲をそそられるわ」
　ののこと同じ理由で家庭科室に来た白沢絢子先生。
「ええところに来たのう。今、できあがったところじゃ。わいのカレー、食べてみてくれんかのう？」
「いいの？」
「おう、たんと食え！　遠慮せんでええ。究極のカレーを求める会の仲間じゃろ」
　わーい！　と大喜びでカレーがよそわれるのを見るののこ。
「私もいただこうかしら。我慢できそうもないわ」
「白沢先生も遠慮せんと食うてくれ。まだまだあるけんのう」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
　合掌して「いただきます」をしてから、カレーを一口。
「おいしーい！　ほっぺたが落ちちゃいそうだよ！」
「このシーフードカレー、美味しいわ。まろやかな味……」
　喜んでもらえて嬉しい巌は、わいも食いたくなってきたと自分の分もよそい一緒に食べ始めた。
「おかわり！」
「ののこ、もう食い終わったんか！？　早いのう」
　ののこからカレー皿を受け取ったその時、勢い良く何かを吸い込むような妙な音が聞こえた。
「何じゃい、この音は……って、カ、カレーが！！」
　寸胴鍋いっぱいに作ったカレーが、あっという間に無くなっていた。犯人は、どこから入ってきたのかわからない珍妙な生き物だ。
「このデブな生き物、猪に似ているような……」
「鬼河内君、これは獏よ。太っているのは、食べすぎが原因かしら？」
「獏やて？」
　動物園におるアレちゃうんかと思ったのは、鼻がゾウみたいなので。よく見ると、鼻先にカレーがべったり。
「これ、獏じゃないじゃろう。猪の変異種かもしれんじゃろうて」
　猪なら、カレーの具にできるはず。ならば、捕獲して調理するまで。
「よくもわいが腕によりをかけて作ったカレー食い尽くしたな！　具にしてやるから覚悟せい！　食えるはずじゃあ！！」
　食われたら食いかえす！　倍返しだ！　と言わんばかりに巌は出刃包丁を握りしめ、逃げる獏を解体しようと試みる。
　かわいそうだよ、というののこの声は、捕獲に燃える巌には届かなかった。

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