豚は出荷よー！｜リアクション

豚は出荷よー！

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「スパイダースパイダー！」
　びゅ、と宙に細長く白い糸が声と共に直線を描いた。蜘蛛の糸だ。
　矢のように飛んだ糸はまるで湖中を泳ぐ魚のごとく急激に弧を描き、豚の首に引っかかる。ぴぎぃ、と豚が悲鳴を上げた。
「よっし今日の俺も絶好調。やったぜPiggie（ブタちゃん）、住宅街で捕まえた！」
　得意気に口笛を吹き、バァンと銃を撃つ手真似をする少年は鎌八まもる。彼が構えた腕の手首からは、豚の首にかかった糸が出ていた。蜘蛛に変身することで粘着糸を発射することができるろっこん「クモ男」だ。
「たべないで、たべないで」
「……いやオレはお前を食べたりなんてしねぇよ」
　ぷるぷると震えながら哀願する豚に苦笑するまもる。
　彼はスースたちによる豚の暴走を知り、こうしてろっこんを使うことで豚を捕獲していたが……。
「さすがに限界があるな……」
　集団相手では苦戦を強いられるため一匹一匹はぐれた豚を探しては捕まえているのだが、これではどうしても効率が悪いくなる。
　よーしよし、お前は今日からオレのバイト先の牧場に来るんだぞー、と捕まえた豚をなだめすかしていると、一台のトラックのような車両が来た。
「出荷！？　出荷するの！？」
「ちょっ、家畜運搬車でも反応するのかよ！？　大丈夫、大丈夫だって！　さっき言ってた牧場行きだから！」
　過敏に家畜運搬車に対して怯える豚を逃がしてしまわないよう、まもるは豚へ抱きつくように引き止めて落ち着かせる。
「ハァイ、まもる。待たせたわね！」
　馬に乗って駆けて来たのは、うさぎことバニー・オークレイだ。
「ああ、うさぎちゃんこっちだ！　っと、ちょっと、おい！？」
「今なの！」
　まもるが手を挙げて合図すると、その隙をついて豚が逃げ出してしまう。
　ぱちん、と乾いた鋭い音。その直後、弾けるような音が響いて逃げようとしていた豚が昏倒する。フィンガースナップをトリガーとした空気銃。それが彼女の能力だった。
　すかさず昏倒した豚の首へとラリアットと呼ばれる投げ縄を投げ込むバニー。何度か縄を引いて豚の状態を確認してから、銃の手真似の指先をふっと吹いた。
「やるなぁ、うさぎちゃん」
「Too easy to let it escape.」
　簡単過ぎる。そう言ってうさぎはちょっとだけ得意気にウィンクして、手綱をまもるへと放る。
「足、必要でしょ？　ちゃんとまもるの馬も連れて来てあげたわ」
「サンクス、うさぎちゃん」
　手綱を受け取り、まもるはバニーが連れてきたもう一匹の馬に飛び乗る。
　ありがとうございます、とまもるが一礼すると、運搬車に乗った中年の男――バニーの父にして、まもるのバイト先のオーナーだ――も帽子を掲げて応えた。
　父が運搬車へと豚を収容したのを見て、バニーは「Hey」とまもるへ呼びかける。
「ガーディアン、準備はOK？」
「オーケー！　見つけ次第二人で車に追い込むフォーメーションで良いな？」
「Alright!」
　了解と、そう言ってバニーがサムズアップするのを確認して、よし、とまもるは頷く。
「それじゃあ行くぜ――フォーメーションP！」
　掛け声と共に、馬蹄の音と自動車のエンジン音が旧市街に轟いた。