子供達のイタズラ｜リアクション

子供達のイタズラ

　数分前、苑下ちかは歩道を滑っていた。踵に仕込んだローラーが全ての道をスケートリンクに変えた。オレンジ色のジャケットに黒いスカートを合わせた姿で風を切る。
「ちかは今日も元気やで」
　黒髪を靡かせてスピードを上げる。頭の上のゴーグルが陽光を弾いて輝いた。
「ええ、穴掘り日和や～」
　ちかは青い空に微笑んだ。人気のないところで両手を広げる。心は大空へと飛び立った。

　数分後、ちかは公園にいた。落とし穴の中、不機嫌そうな顔で立っている。穴の縁にはおかっぱの女の子が膝を抱えた姿で座っていた。
「自分、ちゃうで。かんちがいしたらアカン」
「大成功だよね！」
　女の子は笑顔で言い切った。ちかは手と頭を同時に振って否定した。
「こんなん落とし穴とちゃう。あっさいねん、浅すぎるねん。もっと気合いれてほらんと怒られるわ」
「そうなんだ！　穴に落ちたらスカートがぶわーと上がって、パンツ丸出しになるくらいの深さがいいんだね！」
　女の子は膝を抱えた姿で笑う。激しく身体を前後に揺らしてスカートの中身を見せ付けた。ちかは少し嫌そうな顔をする。
「自分のパンツが丸見えやん。ま、そんくらい深い穴に叩き落とさなアカンねん。それが落とし穴道ちゅーもんや」
「落とされた人は死んじゃうかもね！」
　笑顔の女の子にちかは頷き、慌てて否定した。
「それはもっとアカン。ポリさんにつかまって、たこ焼きが食べられへんようになるわ。自分、かわいい顔していうことが怖いやん」
「じゃあ、このくらいの落とし穴でいいんだよね！　イタズラは大成功！」
「だから、ちゃうって。成功やない」
「浅くても穴に落ちたよね！」
　女の子は澄ました顔を近付ける。対抗してちかも顔を寄せた。二人は鼻先が触れるくらいの位置で見詰め合う。
　先にちかが口を開いた。
「これはナイショの話やねんけどな。自分には話すわ」
「なになに、パンツはいてないとか」
「実はそう、ちゃうわ！　そんな話とちゃう。ちかな、地球と友達やねん。めっちゃ好かれてるから、たまに吸い寄せられたりするねん。今回もそうや。穴に落ちたんやなくて、ちかが地球に吸い寄せられたんや」
「めっちゃ、すごい！」
　女の子の口調に方言が混ざる。
「めっちゃ、すごいねん！」
　ちかには女の子の興奮が伝わった。
　女の子は立ち上がって穴の中に飛び込んだ。
「これであたしも地球の友達だね！」
「めっちゃ、友達やで！」
　二人は肩を組んだ。ちかが即興で作った『地球とオケラは友達』を合唱した。

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