ウィンター！部活動のお時間です！～運動部編～｜リアクション

ウィンター！部活動のお時間です！～運動部編～

「凄いねー！　手に汗握っちゃう！」
　種目が変わる僅かの時間。ののこが興奮気味に喋る。荒太郎や美弥子と今までのレースの感想を言い合っていたが、荒太郎が人影に気付きひょいっと顔を向けた。
「つかさくんおつかれ。惜しかったねー！」
　荒太郎の声を受け、頭を拭きながら士が手を挙げる。彼は４００Ｍ自由の男子で出場したのだが、終盤の追い上げが間に合わず、上位は逃してしまったのだ。
「まあ俺はあせらずじっくり確実に泳ぐのが今日の目標だったからな。収穫はあったよ」
　そして荒太郎の後ろに立ってじっとプールを見つめた。
「最後は志波先輩か」
「うん、頑張って欲しいよね」
　荒太郎もスタート台の脇にいる武道を見つめる。
　合同練習最後のレースが今、始まろうとしていた。

　１００Ｍ自由形。層の厚い種目だ。武道は周囲の選手達に目をやる。県の大会でも見る顔が何人かいるし、今回かなり速い選手も出場していたはずだった。
　しかしこんなにプレッシャーのかかる場面のはずなのに、武道はスタート台の上で心地いい緊張感に包まれていた。俺はどれだけ泳げるのだろう。力を試せる事が、強い相手と戦える事がこんなに嬉しい。
（いつも通り、いや……全力で楽しもう）
　ゴーグルで視界が狭まった自分の世界。俺の目の前には透明な水面しかない。そして。

　スタートの電子音とともに、鍛え上げられた男達が一斉に力強く、美しい弧を描きながら飛び込んだ。

「あれ？」
　両校の応援が始まる中、観客席で荒太郎は目をこすった。武道先輩の飛び込み。気のせいかな？　何だか……。
（飛び込む時笑ってなかった？）
　もう泳いでいる武道の表情は窺い知れない。けれどもあの時、確かにスタート直前に笑っていた気がする。
　しかし荒太郎は頭を振り、すぐに声を張り上げて周囲と共に応援を始めた。
　笑っていたかは分からない。けれど、目の前の先輩はあんなに伸び伸びと気迫のある泳ぎをしている。だから、ぼくが先輩やみんなからたくさんの励ましを貰ったように、自分も今、精一杯武道先輩を応援するんだ。
　荒太郎は大きく大きく腕を振り上げた。
「先輩、がんばれーーーっ！！！」

　大歓声の中の大混戦となった最後のレース。どの選手も今までの自分をぶつけるように、力強くゴールに向かって水しぶきを上げる。抜きつ抜かれつのレース展開のまま、選手達は最後の一掻きに全てを託した。殆ど同時に見えたゴールタッチ。勝負はタイム判定だ。そして。

「やった……！」
　武道が水中で小さくガッツポーズをした。ワーッと大歓声が寝子高応援側から上がり、本日の練習試合の幕が下りた。

　試合が終わり、双方の部員全員で片付けをした後、ここの学校の教室を借りて両校の交流会が行われた。

　テーブルの上には山盛りのお菓子、目の前にはそれぞれ缶ジュース。武道が挨拶のため立ち上がる。
「今回は合同練習をさせて頂き、ありがとうございました。僕達にとって、とても勉強になる１日になりました。……これからも、よろしくお願いします！」
　パッと小麗も立ち上がる。
「お疲れ様なのだ！　楽しくお喋りするのだ、かんぱーい！！」
　小麗の音頭に全員が笑顔で飲み物を掲げた。
「「「「「かんぱーい！！」」」」
　水泳の事、学校の事。
　笑い声が上がる教室で、両校の生徒達は喋り、飲み、楽しく交流を深める。

　今回の合同練習。各々に収穫があり、また新たな絆も作る事が出来た寝子高水泳部だった。