ウィンター！部活動のお時間です！～運動部編～｜リアクション

ウィンター！部活動のお時間です！～運動部編～

　試合は順調に進行している。そんな中、紫は静かにスタートの準備をしていた。荒太郎達の声援を耳にしながら、冷静さと熱さが心地良い緊張感として身体全体に満ちてくる。
　自由形４００Ｍ。対戦相手は皆相手校の女子部員ばかりだ。年下であろう彼らの中で、紫は１人少し離れて準備をする選手に視線を留めた。
（彼女ね……）
　１年生ながら県大会で上位入賞。紫にとってかなりの強敵だ。だからこそ相手にとって不足はない。こちらも高校３年間の集大成をここで見せるつもりなのだから。
　紫は丁寧にゴーグルをつけ、スタート台に上った。
　一瞬の静寂。不安も、闘志も、たくさんの思いも全てが一旦０になる瞬間。そして。
　合図の音と共に選手達が一斉に飛び込んだ。

（さすがに……速い！）
　水の中を流れるように泳ぎながら、紫は１位で前方を行くあの強敵の選手を意識する。だからといって焦りはしない。離されないように気を付けながらペースを保ち喰らい付く。大丈夫、私はこの４００Ｍで３年間の全てを出し切るのだから。
　最初は離されていた１位との距離。しかしレースが中盤にさしかかると徐々に２位グループから紫が１人飛び出してきた。
　少しずつ距離が縮まる。一進一退の攻防。ラスト５０Ｍで完全に２人の競り合いとなった。
　思わぬ試合展開に会場のボルテージも上がる。双方の部員達が声を枯らして応援する中、先にゴールしたのは。

　僅差で紫だった。
　歓声の中、さすがに力を使い果たした紫はぷかりと自コースに浮かんで息を整える。
（……終わったのね、私の最後の試合が……）
　天井からは冬の日差し。何だか今までのデッドヒートが嘘のようだ。でも、今日確実に私の高校での水泳生活が終わったのだ。
　紫は３年間を噛み締めるように、水面に浮かびながら瞳を閉じた。

「あの……！　中盤からの追い上げ凄かったです！　今回は勉強になりました、ありがとうございます」
　プールサイドに上がると、競り合ったあの２位の選手が手を差し出してきた。紫はにこやかにその手を握る。
「いいえ、こちらこそ楽しかったわ。最後のいい思い出になった」
「３年生なんですか？　大学に？」
「ええ」
「大学でも水泳続けられますか？」
　目を輝かして訊いてくる相手に紫は静かに答える。
「そのつもりだけど」
「是非水泳続けて下さい！　そしてまたいつか勝負しましょう！」
　元気よく言う相手に紫は微笑んで頷く。そして２人は再度握手を交わした。